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インタビュー2024年11月21日

バイオベンチャーの雄 ペプチドリームの戦略と展望 金城聖文取締役副社長CFOに聞く(下)

肥満症治療薬GLP-1の課題を補う薬も導出準備着々

――ノバルティスのプルビクトとの違い。
「治療薬についてはプルビクトと類似の薬剤だが、組み合わせる診断薬が大きく異なる。プルビクトは診断薬の核種にガリウム(ガリウム68)を使用する。ガリウムは半減期が約1時間で、数時間経つと効果を失ってしまう。そのため院内で使用直前に診断薬を作ることになるが、院内製造には高価な製造装置が必要な上、製造過程での負担も無視できない。一方、当社診断薬の核種は銅(銅64)。半減期は約13時間と長い。このため当社の千葉工場で製造して日本全国に配送でき、医療機関は届いた診断薬を“そのまま使用できる”。この使い勝手の良さが、重要な差別化要素になる」

「診断薬と治療薬はセットで使用される。治療薬がほぼ同じならば、診断薬の使い勝手が良い当社開発品が選ばれる余地も大きい。プルビクトの開発が先行しているため先行者利益はあろうが、当社開発品も一定のマーケットシェアは狙えるだろう」

――診断薬と治療薬が紐(ひも)づいているのですね。
「それが『セラノスティクス』。セラピー(Therapy:治療)とダイアグノスティック(Diagnostics:診断)を融合した造語で、診断薬と治療薬をセットで病変にアプローチする新しい考え方。診断薬で病変の位置や状態を診断し、それに合う薬を投じ、薬が適しているかどうか診断薬で判定しながら治療するため、『プレシジョンメディシン(精密医療)』という社会ニーズにも合う」

「セラノスティクスに技術的観点で一番フィットするのがRI(放射線医薬品)。診断薬、治療薬とあるが、医薬品としての原薬はまったく同じ化合物で、異なるのは核種だけ。化合物にルテシウムがついているか、カッパー(銅)がついているかの違い。これにより体内に入れた時に同じ挙動を示すため、①診断薬を投与するとがん細胞がピカピカ光る②治療薬を投与すると、光っているがん細胞に治療薬が運ばれ、がん細胞をやっつける③効いたかどうか診断薬で確認④まだ光っている細胞があればさらに治療継続――というサイクルになる。がん細胞は転移することが多いが、転移したがん細胞も光るため発見・殺傷でき、最終的に寛解するところまでもっていく。というのが、がん治療で当たり前の世の中が実現することを期待している。こうしたビジョンのもと、当社はセラノスティクスに注力している」

――基本的にどのがんも見つけて治療できるのか。
「がんは種類によって特異的な抗原(肝がんではGPC3、腎がんはCA9など)を発現することが知られ、それをターゲティングしている。例えば、肝がんならGPC3が90%の確率で発現し、GPC3を追いかければ肝がんに選択的にたどりつく。肝臓から例えば肺に転移したとしても、がんの出自が同じため、GPC3を出して光る。抗原が光っている限りにおいては、どこに逃げても追い詰めることができる。これもRIの大きな特徴だが、PET診断で追いかけるため、非常に小さいミリ単位のがんも光るので見つけることが出来る。がんが隠れきれないというのがこの治療アプローチの優れたところ。このような形で次世代のがん治療は進化していく」

――当面のイベント。
「10月発表のPSMA(前立腺がん治療・診断)後期開発品導入に続き、年末から年始にかけてGPC3(肝がん治療・診断)が海外でフェーズ1を開始見込み。また、CA9(腎がん治療・診断)も国立がんセンターで行われているフェーズ0試験の結果が年始にかけて出てくる見込み。加えて、新たなフェーズ1試験の開始や臨床化合物の同定も発表予定」

――RI事業の今後の成長イメージ。
「一の矢、二の矢、三の矢の積み上げ式で伸ばしていく。一の矢は既存の診断薬。適応を拡大させながら徐々に売り上げを拡大させていく。二の矢はアルツハイマー診断薬。三の矢はがん治療薬で、2027年以降、順次新しい製品を上市する」

「アルツハイマーではエーザイのレカネマブ(商品名レケンビ)、イーライリリーのドナネマブ(商品名ケサンラ)と新しい治療薬が出てきている。これらも治療薬と診断薬がセットで、PET検査でアミヴィットを用いて脳内のアミロイドβの蓄積を確認という用途で使用される。認知症はマーケットのポテンシャルが非常に大きく、アミヴィットの売り上げも年を経ることに拡大していこう。中長期的には、三の矢であるがん治療セラノスティクスが売り上げの半分以上を占めるようにまで成長することを想定している」

――Non-RI事業(非RI事業)はどうか。
「以前からのプラットフォーム事業の延長線上にあり、共同研究に伴う契約一時金やマイルストーンなどが今後の成長ドライバーになる。売上高は過去は2ケタ億円だったが、直近3年は3ケタ億円で推移。プログラム数が増えているため、売上高もこれから少しずつ増えていこう」

「新しい導出候補品も大分仕上がってきている。例えばマイオスタチン阻害剤。リリーやノボノルディスクなどの肥満症治療薬GLP―1の課題を補うもので、セットで使用することで、より高い治療効果につながる可能性があるというので非常に注目を集めている」

――詳しくお願いします。
「GLP―1だけ処方した場合、脂肪だけでなく筋肉も落ちる。筋肉が落ちれば基礎代謝が落ち、結局、リバウンドしてなかなか肥満が治らない。理想は脂肪だけ減り、筋肉は減らず、基礎代謝が維持されることで脂肪がますます燃焼されていくモデル。マイオスタチン阻害剤には筋肉の分解を阻害する働きがあり、マイオスタチン阻害剤とGLP―1を併用すると、筋肉量は減らず脂肪だけが減るという理想的な姿を作れる。現在、グローバルでマイオスタチン阻害剤の競争が激化。中で当社製品は明確な差別化要因があり、リーディングポジションを争っている。これが導出されれば大きなディールになるのではないかと期待されている。現在、重要なデータ取得を進めており、完了次第、具体的な提携協議に入る。海外への導出は、来年をターゲットに話を進めていきたい」

――配当について
「当社から創出された化合物はまだ臨床段階で投資期間。配当開始は、製品が上市され安定的に売り上げが計上される時期が一つの目安と考えている」

※前回は11月15日付当コーナーに掲載しました