日経平均が大底を打った2020年3月19日から1年を経過したが、この間に躍進の際立った業種の1つに、ゲームセクターが挙げられよう。当時、関係者の間で話題を呼んだのが、底入れ直後の3月26日付で発行された「デジタル・ファーストへ~そして、DXの第三段階へ~」だ。このレポートは昨年末に、同業アナリストの選ぶベーシック・レポート・アワードの優秀賞も授賞している。執筆者の岡三証券・森田正司エグゼクティブリサーチフェロー(写真)と言えば、先に発表された日経ヴェリタス・アナリストランキングでも「インターネット・ゲーム」「レジャー・アミューズメント」両部門でベスト3常連の著名アナリストだ。森田氏にレポート執筆後の変化を踏まえて、ゲーム業界の動向や先行きなどについて話を聞いた。
――昨春の力作レポートは今も評価が高い。
「アナリスト生活20年余だが、業界の重鎮に評価されてのアワード受賞は素直にうれしい」
――菅首相自ら旗を振るDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略だが、当時としてはかなり斬新だったのでは。
「00年春にかけてのITバブル期になされた議論の延長線上のものだ。ゲーム、エンターテインメント(エンタメ)業界は構造変化の時期を迎えていた。それがコロナ禍で加速すると考えた」
――構造変化とは。
「それがDXだが、デジタルで変化しつつ、世界に拡大すること。海外では3億人以上が参加する『フォートナイト』などの成功例も出ていた」
――レポートのタイトルにある「第3段階」ということだろうか。
「いきなり、第3段階ではなく、第1段階はリアルやアナログをデジタルに代替する動きで、00年頃から進んできた。足元では第2段階。単なる代替ではなく、デジタルを使って、顧客の体験価値を高めた新しいサービスを生み出すものだ」
――では第3段階は?
「デジタルとアナログの補完関係を構築するものだ。近年、中国などのネット小売大手でリアル店舗が見直されているのも顧客満足度を高めるため。ゲーム・エンタメ業界でも、『場所』や『モノ』などのアナログの付加価値が再認識されるようになるのではないか。デジタルとアナログを組み合わせることで、いかにユーザーをハッピーにするかが問われてくる」
――日本のゲーム各社の現状はどうだろう。ちなみに、レポートで強気推奨した銘柄のその後の高値までを追うと、KADOKAWA(9468)が3.4倍高、コーエーテクモ(3635)が2.6倍高、ネクソン(3659)が2.2倍高など“大当たり”の状況だが…(同じ基準で日経平均は64.5%高)。
「巣ごもりで販売が伸び、オンライン販売で採算も改善してどこも業績好調だが、デジタルならではの新しいサービスがもうちょっと出てきても良かったと感じている」
――どこもダメか?
「もちろんそんなことはない。たとえば、任天堂(7974)の『あつまれ どうぶつの森』。ゲームの枠を超え、ユーザー同士がオンラインでつながるSNS(交流サービス)に近いサービスになっている。これにより、ソフトの販売に加えて、月額定額制の『ニンテンドースイッチオンライン』を通じて収益化している。発売1年を迎えても各種イベントで飽きさせず、継続的な人気をソフト販売以外の方法で収益化している」
――他社ではどうか。
「オンライン対応の成功例ではコナミHD(9766)の『桃太郎電鉄』。直接のオンラインでの課金はしていないが、ユーザーによる『桃鉄』を使った面白い動画のユーチューブ投稿やオンライン対戦機能搭載で、ソフト販売が好調だ」
――デジタル化にも工夫が必要というわけだ。
「デジタル化でも、うまくいくケースといかないケースがある。“全く新しいエンターテインメント”を生み出せればそれこそ、従来の『ソフト100万本売れたら大ヒット』から、ユーザーの裾野を1億~2億人にも広げ、収益性を飛躍的に高める素地も秘める」
――コロナ禍もいずれは終わる。巣ごもり後のゲーム業界をどう見る。
「昨今の活況が一過性で終わるとしたら、つまりは面白くなかったということ。楽しければ継続して遊んでもらえる。企業関係者と話しても、以前はスマートフォン対応がどうしたといった話題が中心だったが、最近はマリオやソニックなどIP(知的財産)を生かしてどう楽しんでもらえるかなど、よりユーザー目線に変わってきている」
――前述の「第3段階」に向けた展開は。
「18日にUSJ内に開業した『スーパー・ニンテンドー・ワールド』のマリオの世界が、ゲームとどう連動するのかなどに注目している」
「そもそもネットでもリアルでも、ユーザーの関心は面白いかどうかにある。アナログである紙のカードゲーム、コナミの『遊戯王』が再びブーム化しているのも、ルール改正でアニメの主人公のような体験ができるようになったためだ」
――社会の潮流を捕らえたこうしたレポートは今後も出していくのか。
「アナリストレポートにも各種あるが、①いち早く伝える②分かりやすく解説―といった役割はいずれAIに代替されていく。DXの時代に生き残るためにも、③市場に織り込まれていない新たなビジョンを示すオピニオン型のレポート―を継続的に出していきたい」