テレワーク拡大の追い風強い
Chatwork(4448・東マ)は、ビジネス用チャットツール「Chatwork」をSaaS(必要な機能をサービスとして利用できるソフトウェア)で提供している。9月24日に新規上場から1年を迎える。これまでの歩みを振り返るとともに今後の展望について井上直樹取締役CFO(最高財務責任者)に聞いた。
――上場から1年を振り返って。
「決算発表などを含め、事業が順調に進んでいることを市場にアピールできた。知名度や信用度の向上により採用も順調だ。コロナ禍でテレワークが一気に浸透し、需要が顕在化したことは追い風となっている。緊急事態宣言が発令された4月は特に問い合わせが多かった。今後2~3年にわたり、前倒しされたテレワーク需要が実際の導入につながっていくだろう。ここ数カ月の短期的な特需だけではなく、良好な事業環境は中期的に続くとみられる」
――上期の決算(8月14日発表)でも好調ぶりが確認されました。
「コロナ禍で、主要KPI(重要業績評価指標)である登録ID数、DAU(1日当たりの利用者数)が大きく伸びた。ただし、当社は継続課金のSaaSビジネスであり、4~6月の登録ユーザーの急増分がいきなり売り上げに大きな影響を及ぼすわけではない。経年で獲得した過去のユーザーにより売り上げが中長期的に積み上がっていく」
下期は体制整え需要刈り取りへ
――下期の取り組みを教えてください。
「上期決算で、通期の業績予想をレンジ形式で開示した(従来は売上高30%以上とする成長率のみ開示)。売上高24億5,000万円~25億4,100万円(前期比35~40%増)、営業利益2億3,100万円~3億5,900万円(同3~4.6倍)と、従来予想を上回る成長ペースとなる見通し。この先のビジネスチャットの導入加速が予想される中で、今期はセールスマーケティングの組織強化、インサイドセールスやエンジニアを中心とした人員増加など、体制の整備を進めていく」
「採用が順調に進み、従業員数は4~6月期に20名純増。この採用ペースは落とさず続けていく。下期はセールスマーケティングの体制がしっかり整うことで、上期にテレワーク特需で十分に実施できなかった広告宣伝費の投下も行えるようになる。レバレッジをかけたマーケティングで、トップライン成長のさらなる加速を図る」
――直近の注目トピックは。
「『Zoom』との連携を7月から開始した。ビデオ会議とチャットは非常に相性が良い。Chatworkユーザーの利便性向上だけにとどまらず、Zoomユーザーの方々にもChatworkを使っていただけるとありがたい。営業の新規顧客獲得のフックにもなっている。また、Chatworkが三井住友銀行の『テレワーク導入支援プログラム』の対象サービスとして選ばれたことも大きなトピック。三井住友銀行の顧客基盤と営業網を通じた導入促進が期待できるほか、銀行の“お墨付き”を得たことでさらなる信用度の向上につながった」
――将来の成長イメージをお聞かせください。
「日本におけるビジネスチャットの普及率はまだ低い。7~8割は白地のマーケットであり、まずはこの中で面をとっていくことが最優先事項だ。当社のメインターゲットである中小企業において、2024年までに圧倒的なシェアを確立する。また、現状の成長率を維持し、売上高100億円規模を目指す」
「長期ビジョンとしてChatworkを“ビジネス版スーパーアプリ”へ進化させる構想を持っている。スーパーアプリとは、アプリ自体がプラットフォームとなり、その中で様々なサービスを受けられる、多様なニーズの起点となるアプリのこと。日本では『LINE』や『PayPay』、中国では『WeChat』などがスーパーアプリ構想を打ち出している。コンシューマーの領域でも、基本的にスーパーアプリとなれるのはチャットか決済。Chatworkは他社のSaaSプロダクトと比べてユーザーの滞在時間が長いため、プラットフォーム価値はかなり高い。既にテストマーケティング的取り組みは始めており、25年以降に収益の柱となってくるイメージ」
――最後に、株主還元策に対する考えをお願いします。
「今は成長の過程にある。まずは業績を拡大させ、その結果を株価に反映させることで株主の方への還元としたい。当社株式を長期保有する株主の方に、有償で販売しているパーソナルプランを無償で提供する株主優待を実施している。個人の投資家の方々にぜひご利用いただきたい」
企業名:Chatwork
事業概要:ビジネスチャットツール「Chatwork」の開発・提供、セキュリティソフトウエア「ESET」の代理販売
上場日:2019/9/24
初値:1,480円