ほぼ確実に来る未来に賭け、「ゼットポール」に注目
2023年6月を忘れてはならない。静かなる大転換が起こった月だ。米国の化学会社3Mが米国の自治体に対して1.8兆円を支払うと6月に合意した。
米国の自治体は3Mを訴えてきた。理由は3Mが生産する有機フッ素化合物(PFAS・ピーファス)が発がん性や免疫機能の低下に影響があるとの疑いがあるためだ。3Mはその訴えを事実上認め、和解金を支払う。
PFASは有害物質なのだ。だから3MはPFASの生産を3年以内に全面的に停止する。これは対岸の火事ではない。PFASの影響は人類に共通する。PFASは人体や環境に蓄積し、数千年にわたり分解されない。だから「永遠の化学物質」とも呼ばれる。水や油をはじき、熱に強いなどの性質があり、消火剤からフライパンのコーティング剤まで幅広い製品に使われてきた。われわれ日本人にも身近に存在する物質だ。
欧州の動きは急だ。人の健康に悪影響を与えるレベルに達しているとして、PFASの製造、使用を制限する規制案が提出された。そして現在は使用の猶予期間などについて意見の募集が行われている。9月末には意見募集は終わり、PFAS規制が25年中に発効するようだ。
一方で日本の動きは緩慢。環境省はPFASを巡り、血液検査を全国規模で行う方針を示した。まだ実態把握の段階だ。それでも欧米の動きを見ると日本でも規制に向かうのはほぼ確実だ。
投資のキモはほぼ確実に来る未来に賭けることだ。PFAS規制はその典型例だ。PFASの使用先は上記の消火剤やフライパンのコーティング剤だけではない。半導体の製造プロセスや食品の包装材料、自動車用の合成ゴムなどにも使われる。多くの製品で代替品への需要シフトが始まるはずだ。
代替需要で注目すべきは日本ゼオン(4205・P)だ。自動車用の合成ゴムでは同社が生産するゼットポールがPFASの代替品となりそうだ。
ゼットポールは耐熱性、耐油性に優れた合成ゴムだ。自動車を中心として様々な製品に既に使われている。もちろんPFAS規制の対象ではない。今後はPFASを使った合成ゴムからゼットポールへ需要がシフトするだろう。足元でも需要も高まっているようだ。これはPFAS規制とは関係なく、電気自動車用途のようだ。リチウムイオン電池の正極材にゼットポールが接着剤として使用され国内外で需要が高まっている。この需要に加えてPFAS規制でさらにゼットポールの需要が高まることが期待できる。
既に日本ゼオンの第1四半期決算が発表され、会社側は通期の会社計画を上方修正している。ゼットポールを中心に特殊合成ゴム事業が好調だったようだ。通期の会社計画の営業利益を見ると下期の前提は維持されたままだ。さらなる業績上振れが期待できるだろう。バリュエーションも魅力的だ。PERは来期ベースで市場平均以下の12倍で、PBRはいまだに1倍割れの0.9倍だ。
日本ゼオンの企業理念も注目される。「大地の永遠と人類の繁栄に貢献する」とある。社名のゼオンはギリシャ語のゼオ(大地)とエオン(永遠)から作られた合成語だ。大地や環境にやさしい会社なのだ。そのゼオンが製造するゼットポールは持続可能な地球に貢献し、「永遠の化学物質」であるPFASを急速に代替する製品に成長しそうだ。PFAS規制とその代替製品。まさに日本ゼオンの面目躍如の局面だ。(田口れん太)
証券会社と運用会社の両方の経験を持つ投資家。海外経験が長く外国人投資家の運用方法に造詣が深い。ネコと料理をこよなく愛する。