EVとAIが需要押し上げ
電力産業は成長産業だ。2つの分野が成長を牽引する。1つは電気自動車だ。言うまでもなく電気自動車は電気で走る。電気自動車の普及率が3割となると日本の電力需要を3%押し上げると推定されている。
既に中国では新車販売の3割が電気自動車だ。日本においても2030年までに新車販売を最大で3割が電気自動車になると経済産業省は予想している。中国の普及ペースを考えると日本での普及率3割のタイミングは前倒しになると考えるべきだ。
たかが3%の需要押し上げと見くびるべきではない。冬場の電力不足を思い出してほしい。電力使用量が供給力ギリギリの97%に達することがしばしばだ。新たな供給増がなければ、電気自動車の普及だけで需要が供給を上回る。電力の場合、需要が供給を上回るのは深刻な事態を招く。最悪、停電だ。それを防ぐために節電要請や計画停電となる。
もう一つの牽引役はAIだ。チャットGPTの大成功でAIが稼働する新型データセンターへの投資が盛んだ。新型データセンターが消費する電力は通常のデータセンターの2~3倍と言われている。21年の試算によると新型データセンターの需要拡大により30年に日本の電力需要は9%増加する。AIは電気自動車以上に需要を押し上げるのだ。
しかもこれは2年前の試算だ。AIブームの前の控えめな数字と考えるべきだ。既にアメリカでは深刻な事態も起こっている。アメリカではバージニア州にデータセンターが集中している。その地域に電力を供給するドミニオンエナジーは22年に警告を発した。急増する需要に対応できず、停電が発生するとの内容だ。結局、停電は免れたものの、IT業界関係者は新型のデータセンターが増加することで同様の事態が頻発すると懸念している。
電力セクターに対する見方を変えるタイミングだろう。既に将来を予見させるような好決算が続出している。第1四半期の経常利益の進捗率を見ると、北海道電力と北陸電力は通期の会社計画を第1四半期の段階で超過している。その他ほとんどの電力会社の第1四半期の経常利益は通期会社計画の5割を超過している。上半期の決算時に上方修正が続出だろう。
そしてさらなる朗報だ。既存原発の安全対策に掛かる費用を政府が支援する方針が示された。政府が導入する予定の「長期脱炭素電源オークション」の対象に既存の原発の安全対策費用が含まれるようだ。そうなれば、電力会社は数千億円規模となる安全対策費用が軽減できる。上記オークションは来年1月に実施の予定。再稼働の対応を進めている電力会社には保有する原発がオークションで落札されれば朗報だ。
この局面では東北電力(9506・P)に注目すべきだ。第1四半期の経常利益は1,130億円で、通期の会社計画は2,000億円だ。既に進捗率は56%で高水準にある。値上げと燃料安が貢献したようだ。原発の再稼働も注目点。これまで東北電力の原発は全て稼働停止だった。主力原発の1つである女川第二原発は来年2月に再稼働する予定だ。来期以降の利益に貢献するだろう。再稼働が見通せない女川第3原発、東通第1原発などが上記のオークション対象になれば、安全対策工事費用も大きく減額される可能性もある。
バリュエーションを見てみよう。PERは1ケタでPBRは1倍を割れている。株価を押し上げる要因は豊富だ。好業績と電源オークション、原発の再稼働。さらに電気自動車とAIによる需要押し上げ。東北電力に注目だ。(田口れん太)
証券会社と運用会社の両方の経験を持つ投資家。海外経験が長く外国人投資家の運用方法に造詣が深い。ネコと料理をこよなく愛する。