為替介入は円安要因に
円安は進むだろう。筆者は数年程度で円は対ドルで240円程度になるとみている。それは1979年のドル円の水準だ。
あと100円もの大幅な円安になるはずはないとの声も聞こえる。そんなことはない。スイスフラン円の水準が参考になる。スイスフラン円は79年の最安値159円を突破し、現在は過去最安値の165円だ。ドル円レートが79年の水準に達してもなんの不思議もない。
筆者が目先の円安のカタリストと考えるのは為替の介入だ。一般的には円安時の介入は円高に反転させるために行われる。筆者の見方は逆だ。今回の局面では介入はその意図に反して円安に拍車を掛けると考える。そう考えるのは円安時の介入が特殊だからだ。
円安時の介入はドルを売って円を買う。ドルを売るための資金は国が保有している外貨準備が充てられる。つまりドル売り円買いの為替介入は外貨準備額までしか行えない。そしてその限界と副作用が見えるのだ。
ではその上限を見てみよう。4月末時点で日本の外貨準備は12.6兆ドルだ。円に換算して182兆円だ。昨年の介入では約9兆円の資金が投じられた。同額の介入を続ければ20回分だ。一見、潤沢な資金があるように見えるがそうではない。
通常であれば介入に使われる資金は外国中央銀行などに保有する外貨預金だ。4月末の残高は1,360億ドル、円換算で19.7兆円だ。あとわずか2回分だ。日本の当局者も愚かではない。市場から軍資金がわずかであることを見透かされたくなかったのだろう。昨年の介入では外貨預金は使わなかった。
禁断の果実に手を付けた。外貨準備の多くを占める外国証券の売却を行った。外国証券の残高は1兆ドルで円換算すると145兆円で、その多くは米国債だ。禁断の果実には副作用がある。日本が介入資金を捻出するために米国債を売却すると米国の金利上昇を招く。
今回も介入が行われるとしよう。規模は前回同様9兆円とする。通常の外貨預金を使った介入ならば2回分だ。当然、介入資金の途絶を市場は織り込む。円安に拍車を掛ける。では米国債を売却し介入したとしよう。9兆円もの米国債の売却だ。金利上昇だ。実際、米国債を売却して介入を行った昨年秋に10年債利回りは約1%上昇し4.2%となった。今回も米国債の売却による介入を行えば米国10年債利回りは上昇し、現状を考慮すれば5%近くに達するだろう。日米の金利差は拡大する。それは円安を招く。つまりどちらの選択でも為替介入は円安要因なのだ。
この状況を利用しない手はない。ドル建てのMMFの金利は4%を優に超えている。こういった商品の残高を積み上げるのは手だろう。銘柄ならインバウンド関連だ。今後の円安によりインバウンド需要はさらに増す可能性がある。幸い中国は日本旅行に対するビザを解禁した。秋の中国のカレンダー並びもよい。9月末から10月初めまで土日を含めると10連休となる。
銘柄であれば筆者は京阪HD(9045・P)に注目している。路線の一つ、嵐山線は京都観光の観光客で通勤ラッシュ並みの混雑になっていると伝えられている。だから業績は好調。第1四半期(4~6月)の経常利益は89億円で通期の会社計画に対して40%の高進捗だ。そして第2四半期は観光シーズンとなる。さらに秋以降は中国インバウンド。円安の加速とインバウンドで京阪HDに注目だ。(田口れん太)
証券会社と運用会社の両方の経験を持つ投資家。海外経験が長く外国人投資家の運用方法に造詣が深い。ネコと料理をこよなく愛する。