ITインフラとデジタルマーケティングを両輪とするスターティアHD(3393・P)が11月13日の実質最高値まであと一息に迫ってきた。右肩上がりの上昇相場をたどってきたとはいえ、2ケタ増ペースで最高益更新や増配を続けながらもPER11倍台、配当利回り4.6%台と、指標面は依然割安感が際立つ。はたして時価は「買い」でいいのか。事業の安定性や成長性、そして今後の展開力など様々な角度から同社の本郷秀之社長兼CEO(最高経営責任者)=写真=に話を聞いた。
――まずは簡単な事業内容の説明を。
「売上高の8割強を占める『ITインフラ』は、オフィス内にあるコピー機、パソコン、サーバーや、LAN、ルーターのネットワーク機器など全ての販売・保守サポートを手掛ける。一方、同2割弱の『デジタルマーケティング』はインターネットを経由して利用できるSaaSサービスで、特にホームページを使って集客し、見込み客を囲い込んで購買につなげるなど、ITを駆使したマーケティング活動サービスを担う。両事業とも対象は中小企業だ。そして、デジタルマーケティングの約8割など総売上高の半分強が(売り切りではなく)ストック型という手堅い会社だ。決算を締めた段階で、何もしなくても次期の売上高の半分以上が見えているようなもの。赤字企業の多い(クラウド経由でソフトウエアを提供する)SaaS各社とはまるで違う」
――2021年3月期に赤字となったのは。
「デジタルマーケティング部門に『2~3年で50億~60億円投資する』と事前に発表し、実行したためだ。投資一巡とともに利益が急増してきたのは当然の結果と言える」
――顧客の大半が中小企業では、経営が不安定なような気もするが…。
「逆だ。大手に対してIT投資で大きく遅れを取ってきたのが中小企業。話題のDX(デジタル・トランスフォーメーション)は3局面に分類されるが、FAXをメールに代えた、エクセル・ワードを導入したといった全くの初期段階のところがまだ多い。DXが声高に叫ばれるようになったここ1、2年で需要急拡大中だ。人材難のなかITの重要性は高まるばかり。近年は個人情報漏洩の補償金額がハネ上がり、セキュリティ対応は中小企業にとっても死活問題となってきた。先般、収益見通しの増額に踏み切ったのも、ランサムウエア関係などセキュリティ商品が想定を上回ったためだ。今やホームページのない会社は『怪しい』と思われるような風潮にある。ホームページを通じて集客する当社のMA(マーケティング・オートメーション)ツールなどもいずれ必需品になるとみている」
――市場が有望な分、同業内の競争が激化しそうだが、ライバルは?
「ITインフラは大塚商会やフォーバルなど。デジタルマーケティングはHubSpotといった外資系企業などが挙げられる」
――スターティアの強みはどこにあるのか。
「ITインフラは、自社メンテナンスのできるエリアに特化した展開にある。OAとネットワークを両方扱える企業は案外少なく、ラインアップの豊富さも競争力に直結している。デジタルマーケティングは価格面が一番の強みだ。同業他社が高機能・高価格を指向するなか、当社はあえて中小企業に必要な機能に絞り込んで、低価格化によって幅広い浸透を図ってきた。日本の99.7%が中小企業だ」
――「低価格」とは具体的にいくらぐらいか。
「値上げを経て月3万円強となったが、実は一番安いのは『0円』だ。無料版でも8割方の機能は使える。それでも、例えば『メール送信なら100件まで』といった制限があるため、実際に使ってみて効果を実感した方が有料版に移行してくることになる」
――デジタルマーケティングはトップシェア?
「MAツールに関してはトップだ。他は公式な統計がないが、AR(拡張現実)などもトップの可能性が高い。ちなみに、紙面にかざすとグラフなどが浮かび上がる日本経済新聞社のアプリ『日経AR』は当社がシステムを提供している」
――4月に営業開始した合弁会社も将来性大だとか。
「奈良県内における新規顧客獲得によるシェア拡大を目的に、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社と合弁会社『富士フイルムBI奈良』を設立。社名にはスターティアのスの字も入っていないが、当社の出資比率は66.6%。出向した当社社員が『富士フイルムの冠がついた社名』の名刺で営業できるため、メリットは非常に大きい」
――話を聞くと、安定性に加えて成長期待も大きそうだ。株価ももっと評価されていいのでは。
「私もそう思う(笑)。業績は中期計画を上回る進捗が続き、配当性向55%に引き上げたことに加え、累進配当制も導入している。売ったり買ったりではなく、長く持ち続けてほしい」(K)