スカパーJSATホールディングス(9412)は、有料多チャンネル放送「スカパー!」とアジア最大の衛星通信サービスを展開している。今後の戦略などについて、同社の代表取締役社長の米倉英一氏(写真)に聞いた。
――宇宙事業でNTT(9432)と提携したが、御社の役割をお聞かせください。
「持続可能な社会の実現に向けた新たな宇宙事業を目指し、Beyond5G/6G時代の『宇宙統合コンピューティング・ネットワーク』を構築するために、NTTとの業務提携を公表しました。今後、両社で宇宙と地上を統合したインフラ基盤整備と技術開発について議論を進めていきます。当社は30年以上の衛星オペレーターとしての経験・実績をベースに、衛星運用・管制システムの適正化・信頼性向上、ならびに周波数・無線局免許手続きやネットワーク運用、宇宙業界における国内外のパートナーシップ構築などの面で、検討をリードしていきます」
――航空機Wi‐Fi関連が成長マーケットとの話だが、グローバルで、どの地域・国が有望でしょうか。
「当社が保有する衛星フリートの主な対象は、アジア・太平洋マーケットとなります。新型コロナウイルス感染症拡大の影響は無視できませんが、地上回線の高速化が進むにつれて、航空機内インターネット接続用の衛星回線需要は着実に伸びていく分野だと考えています」
――異業種連携、出資など多様な事業パートナーと積極的なコラボレーションを図るのか。具体的にどの業種が有望でしょうか。
「当社の宇宙事業においては、従来の静止衛星(GEO)による衛星通信サービスから、海洋・地上から宇宙空間まで多様な『Space』を開拓し、宇宙から得られるさまざまなデータを解析・利用した情報サービスへの進化を事業ビジョンとして掲げています。そのためには、国内に限らず海外の企業とのパートナーシップも積極的に図っていきたいと考えています。GEOや低軌道衛星(LEO)などの衛星オペレーターにとどまらず、AI・情報通信技術のスタートアップ企業を含め、多様な可能性を追求していきます」
――メディア事業について、将来の成長に向けた投資を行うとの話だが、具体的にどの分野でしょうか。
「国内外の動画配信サービスとの顧客獲得競争やスポーツコンテンツを中心としたコンテンツ獲得競争の激化により、厳しい事業環境が続いています。『スカパー!』を、コンテンツをエンジョイするだけではない、世代を超え、生活スタイルを支えるブランドとして発展させる必要があります。従来の映像コンテンツだけでなく、モノ、コトも含めたお客様一人ひとりが望むライフスタイルそのものを、放送や配信の垣根無く、いつでもどこでも楽しめるようにしていきます。具体的には、テレビ端末とスマホ向けサービスをシームレスに利用できる使い勝手の良いB2Cプラットフォームに進化させるとともに、放送センターなどの既存のアセットを活用したB2Bプラットフォームの構築にも積極的に投資し、事業領域の拡大を図っていきます。また、宇宙事業とメディア事業という、一見かけ離れてみえる事業をつなぐようなサービス、例えば、社会インフラ、ライフラインを支える宇宙事業の中からB2Cビジネスを創造し、『スカパー!』と組み合わせることで、新しい世界観をライフスタイルに持ち込むことができれば、当社のユニークさをさらに活かすことができ、競合との差別化にもつながるのでないかと考えています」
――「スカパー!オンデマンド」という配信サービスをリニューアルするとのことだが、具体的にお聞かせください。
「具体的なリニューアルの内容・構成について対外公表するのは、加入者への告知も含めてこれからになりますが、これまでどちらかというと、有料多チャンネル放送の加入者に対する付加価値的な位置づけであった動画配信サービスを本格的な事業に位置づけ、コンテンツやプラットフォームの整備を強化するとともに、将来的には放送と動画配信を融合した次世代プラットフォームに進化させます。また、順調に拡大しているFTTH事業、すなわち光回線によるテレビ再送信サービスにも注力していきたいと考えています」
――B2B事業を推進していくとの話だが、具体的にお聞かせください。
「『メディアHUBクラウド』という名称でサービス展開を図ります。これは、われわれが保有する各種放送設備・ノウハウを有効活用し、さまざまな企業に対して動画配信を手軽に、効率的に行っていただけるよう、映像コンテンツ配信のハブ機能として、当社の放送設備を利用してもらい、収益の多角化を目指すものです。例えば、動画配信事業者に手軽にコンテンツを提供したい、イベントをネット配信したい、海外コンテンツをネット配信したい、といったさまざまな要望をお持ちの企業にこのサービスを活用していただくことを狙っています」
――新型コロナウイルスの業績への影響をお聞かせください。
「2020年度の業績に関しては、新型コロナウイルス感染症拡大の影響は限定的でした。メディア事業においては、プロ野球の開幕遅延や想定していたライブイベントの放送・配信の一部中止などにより、新規加入獲得に若干影響が出ましたが、それ以上の費用抑制の結果、営業利益は前年度比大幅増益となりました。宇宙事業においては、航空機向けインターネット接続用回線需要の減少がありましたが、当初の想定に比べて限定的で、新規衛星(Horizons 3e、JCSAT―17)からの収益貢献で増収増益を達成することができました」
――SDGsへの取り組みを具体的にお聞かせください。
「当社は、放送・通信という公共性の高い事業の担い手として、これまでも災害対策や安全保障分野においてさまざまな社会課題の解決に取り組んできました。2020年9月には、サステナビリティ委員会を立ち上げ、より豊かな社会の実現と持続的な成長の両立を目指すサステナビリティ経営のさらなる深化に向けた取り組みを企業一丸となって推進しています。社内での議論に加え、外部のステークホルダーや有識者の意見も踏まえ、このたび当社として取り組むべき9つの重要課題(マテリアリティ)を設定しました。今年度から、これらの課題に基づき、中長期的な対応方針や具体的な目標を定め、サステナビリティ経営を実践してまいります」
――年18円の配当は継続しますか。
「はい。株主の皆様に対しては、2021年度も引き続き、1株あたり年18円の安定配当を継続して実施したいと考えています」
――最後に投資家へのメッセージをお願いします。
「当社は昨年度『プラン2020+』を策定し、『ヒト・事業・会社』の全方位で抜本的な改革を進めていくことを公表しました。今年度も、このプランをさらに深掘りし積極的に推進してまいります。場所・時間に囚われない柔軟な働き方、若手社員の抜擢等による人財活性化(REPOWERING)、企業ブランドの再創生(REBRANDING)、そして宇宙・メディア両事業の基礎収益力の向上のための諸施策(REBUILDING)の強化に注力いたします。特に、メディア事業は衛星放送だけに留まらず、視聴ニーズや市場環境の変化を捉えながら、宇宙事業の資産とノウハウを活かした展開を検討中です。社会基盤・ライフラインの一翼も融合させながら、新規顧客層として狙う若い世代に向けては、『スカパー!』というライフスタイルブランドに進化させ、投資家にとって、スカパーJSATグループが唯一無二の存在であるとお示しできるよう尽力してまいります。これからも、事業環境の変化のスピードにあわせて柔軟に対応し、グループミッション『Space for your Smile』の実現に向けて、従業員一人ひとりが自己変革し、パフォーマンスを最大限発揮できる会社を目指します」