ispace(9348・G)は、月着陸船(ランダー)と月面探査車(ローバー)を自社開発し、顧客の荷物を載せて月周回および月面へ輸送するサービスと、月面データの調査支援およびサービスの提供をする宇宙ベンチャー。宇宙資源開発を活用し、地球と月をひとつのエコシステムとする持続的な世界の構築を目指す。同社を率いる袴田武史代表取締役CEO&Founderに事業の魅力や今冬打ち上げ予定のミッション2への手応えなどを聞いた。
なぜ月を舞台にビジネス展開しているのでしょう。
一番は『月』のマーケットが今後成長するため。アルテミス計画(NASAが主導する有人月探査計画)を中心に輸送需要が増加する一方、月を中心とした“深(しん)宇宙のビジネス”はプレイヤーが非常に少なく、ブルーオーシャン。このため非常に面白いマーケットといえる
袴田CEOは宇宙工学と経営の双方の知識を持つと聞きました。
映画『スター・ウォーズ』をきっかけに宇宙船に興味を持ち、それが高じて航空宇宙工学を学び、米国の大学院に。そこで米ヴァージン・ギャラクティック(民間の宇宙旅行会社)が開発した宇宙船のパイロットの講演を聴講。民間宇宙事業に思いを馳せながら周りを見るとエンジニアばかりだった。そこで『エンジニアはたくさんいる。自分は経営や資本の面から支える人になろう』と思ったことが転機となった
それと、いかに最適化してモノを作るかに関心があった。大学院生は各分野で専門性を高めていくが、宇宙船は構造系、制御系などどれかを極めても作れない。作ったとしても買う人がいなければ意味がなく、経済合理性も欠かせない。こうした考えを持っていたので、当社において概念設計で経済合理性を突き詰め、商業化を見据えて進めてきた
事業環境はどうか。
米中の宇宙開発競争が始まる中、アルテミス計画を中心に月に対する政府予算がついてきた。1961~1972年のアポロ計画は有人月面着陸が目的だったが、アルテミス計画は月面長期滞在が目的。月への物資輸送のニーズが定常的に生まれることになり、これがビジネスの源泉になっていく
月への物資輸送ビジネスでの競争優位性。
われわれのような小型・無人のロボティクスミッションではプレイヤーは、米国企業3社(アストロボティック・テクノロジー、インテュイティブ・マシーンズ、ファイアフライ・エアロスペース)と当社しか現実にはない。市場黎明期を迎えようとする中、当社は新しい技術開発は行わず、必要な技術を世界から集めて設計することでコスト抑制と早期参入を指向。また、米国と欧州に子会社を置き、国内調達要件をクリアできる体制を構築。米国3社と異なり、日本のほか欧米を含め海外需要を取り込める体制にある
需要は現在は政府系がメーン。民間のニーズは。
将来的に宇宙開発は民間がかなり関わってくる世界になるだろう。現在、月などで採掘した宇宙資源の所有権について、国家に認めず、民間には認める方向で議論が走り始めている。民間に認めるとなれば民間ビジネスを主体にしなければならなくなるのでそこに産業が興る。民間のお客さんがどんどん増えてくるだろう
今年の冬、ミッション2の打ち上げを予定しています。
ミッションを継続的に行い、技術成熟度を飛躍的に高めていくことが重要と考え、1回失敗したとしても次につなげていくことでリスクを管理しようとしている。ミッション1は残念ながら着陸を完全には成功できなかった。ハードウエアは特に問題はなく、ソフトウエアに課題があったが、課題が明確なので対応できる。ミッション2は成功できるようにしっかり準備を進めている
最後に株主や投資家へのメッセージをお願いします。
一つのミッションで長期的なトレンドが変わることはなく、ぜひ事業を中長期的で見ていただきたい。業績に関しても、一つのミッションに数年かかるため四半期決算など短期業績に実態は表れにくい。四半期業績のみで判断せず、開発進捗状況を開示しているので、開発がどの段階にきているかや、MOU(基本合意書)などの売り上げにつながる案件がどれだけ積み上がってきているか、といった点を見ていただければと思う。ぜひ応援をお願いします