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トップ記事2020年10月23日

ロンドンに続いて香港、相次ぐトラブルで今がチャンス 税制で描く「国際金融センター・東京」への道 金融庁 柳沢信高総合政策監理官に聞く

金融庁
柳沢信高総合政策監理官

海の向こうでは「バイデン増税VSトランプ減税」といった形で税制に焦点が当てられているが、日本においても再び“税制の季節”が巡ってきた。コロナの影響から、各省庁の税制改正要望提出は1カ月延びて9月末となったものの、決着となる税制改正大綱策定は例年通りの12月半ばを予定。その分、急ピッチでの作業が関係者間で進められている様子だ。証券関連分野での注目点などについて、金融庁の柳沢信高総合政策監理官(写真)に話を聞いた。

――まずは昨年の要望から。NISA(少額投資非課税制度)の恒久化・期限延長を求めたが、フタを開けてみたら2024年から5年間の新・NISA移行となった。

「税務当局と議論を深めていくなかで決まった。『1階』で積立・分散投資を経験した投資家に、『2階』の上場株式、公募投信でも非課税で投資してもらう仕組みだ」

――投資経験者は2階のみの投資も可能とか。

「その場合の対象は上場株式のみとなる。成長資金の供給拡大につなげるためだ。もともとNISAは投資未経験者にどんどん利用してもらうために導入された制度だ」

――今年の要望は例年と様相が異なる。最初に「国際金融センターの確立」、次いで「新型コロナへの対応」「税務上の手続きのデジタル化」と今風の項目が並ぶ。“一丁目一番地”のNISAが一段落ついたこともあろうが、一方で「上場株式の相続税評価見直し」など既存の重点事項が後退したようにも見える。方針を変えてきたのか。

「もちろん相続税評価見直しは重要だが、多数の要望を行ううえで、現在の情勢を踏まえた優先順位を付ける必要がある。国際金融センターの議論が大きく盛り上がったのは今年に入ってからだし、コロナ対応はまさに今、必要とされている」

――「デジタル化」は菅首相に合わせたか。

「幸いと言うべきか(笑)、これまで準備してきたものが新首相の政策とうまく合致した」

――要望の筆頭に掲げられた「国際金融センター確立」に何が必要か。

「香港問題からグローバル金融機関に拠点分散ニーズが高まるなか候補の一角に加わりたいが、ヒアリングすると、日本の法人税、相続税、所得税が障害となっている」

――まず法人税は。

「役職員の業績連動報酬の損金算入要件が厳しく、有価証券報告書に具体的ルールが記載されている企業にしか認められない。ほかの形のルール開示でも損金算入が認められるよう要望している」

――相続税はどうか。

「海外からの赴任者には『日本では死ねない』との声があるそうだ。直近15年間で日本在住が10年を超えると、『来日前に築いた海外資産』まで相続税の対象となるためだ。その結果、数年単位で本国に戻ってしまう」

――あとは所得税。

「ファンドマネージャーがファンドの一部に出資し、一定以上の運用成果を出せばファンド持ち分以上の分配を受ける仕組みは諸外国では一般的だが、日本の税法上の取り扱いは必ずしも明確ではない。金融所得の税率は20%でも、通常の所得税・住民税で最大55%課税となる可能性も残る」

――英語の問題は?

「税制改正要望の話からはそれるが、予算要求として、登録審査から監督まで英語で一貫対応できるオフィスの新設や業務統括する課長級の参事官ポストを求めている」

――そもそも論だが、日本が国際金融センターの一角に入り、海外の金融人材を迎える目的は。

「ハイレベルな海外金融事業者に来てもらえれば、日本の資産運用業全体のレベルアップにつながり、一般の国民の資産形成に資すると考える」

――聞きようによっては、現状の日本のレベルが低いということに…。

「業界にケンカを売るつもりはないので誤解なきよう(笑)。プレーヤーが増えれば必ず競争につながり、より顧客の利益につながる商品の提供が進む。そうした環境の整備に努めていきたい」

――昨年は新NISAという大きな成果を得た。「“大玉”の翌年は厳しい」との声も聞くが。

「そうした声があるという話も聞くが、今やらねばならないことと強く感じている」

――最後にデジタル化要望についても一言を。

「一般NISAからつみたてNISAに口座の種類変更をするだけで再び本人確認書類を郵送させたり、海外投資家の国債購入で非課税適用申請書の現物書面を求めたりといった手続き面の改善を求めている」