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銘柄・相場情報2024年8月22日

企業研究 日立製作所 クオリティー銘柄の代表

来期営業利益は1兆円乗せへ

DXとGXで成長する大型IT株

今回の暴落相場ではクオリティー(高品質)銘柄の押し目買いが有効であるとの声が多くの市場関係者から聞かれる。その代表格して日立製作所(6501・P)に注目したい。長年取り組んできた構造改革が終盤に差し掛かり、今後はGX(グリーントランスフォーメーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション)での成長がストレートに業績に反映されることが期待できる大型グロース株として評価できる。

構造改革で一例を挙げると親子上場の解消がある。2010年3月期に22社あった上場子会社は23年3月期にはゼロとなった。事業ポートフォリオの入れ替えも進み、非中核事業の売却を進める一方で、将来の成長に向け新事業の買収を進めてきた。デジタル分野で全社を横断する「Lumada(ルマーダ)事業」を加速するため米IT大手のグローバルロジック社、GX関連ではスイスの重電大手、ABBの送配電事業の買収などがある。

足元の業績も好調だ。25年3月期第1四半期(1Q、4~6月)は売上高が前年同期比4.8%減の2兆2,114億円、調整後営業利益は同51.4%増の1,876億円だった。

通期の売上高は売上高が前期比7.5%減の9兆円、調整後営業利益は同13.1%増の8,550億円と2ケタの増益を見込む。為替前提は1ドル=140円を据え置いており、保守的な姿勢継続に一定の安心感がある。

ちなみに、投資判断を「買い」、目標株価を4,000円とするみずほ証券では今期の営業利益を同19.1%増の9,000億円と予想している。1Q決算ではデジタルシステム&サービス(DSS)のデジタルソリューション(システムインテグレーション、コンサルティング、クラウドサービス)、ITプロダクツ(ストレージ、サーバ)、ソフトウエア、ATMなどが予想以上に好調だったほか、エネルギーソリューション(パワーグリッド、再生可能エネルギー、原子力)、鉄道システムなどで構成されるグリーンエナジー&モビリティ(GEM)も堅調だった。日立エナジーの洋上風力発電所向けHVDC関連や変圧器・スイッチギアの売り上げ増や生産効率向上などが確認されている。

日立製作所の業績推移
決算期 売上高 前期比 営業利益 前期比 経常利益 前期比 純利益 前期比 1株利益
2014年3月期 9,666,446 6.9% 678,498 96.9% 413,877 136.1% 89.4円
2015年3月期 9,774,930 1.1% 641,325 518,994 -23.5% 217,482 -47.5% 47.0円
2016年3月期 10,034,305 2.7% 634,869 -1.0% 517,040 -0.4% 172,155 -20.8% 37.2円
2017年3月期 9,162,264 -8.7% 587,309 -7.5% 469,091 -9.3% 231,261 34.3% 50.0円
2018年3月期 9,368,614 2.3% 714,630 21.7% 638,646 36.1% 362,988 57.0% 78.4円
2019年3月期 9,480,619 1.2% 754,976 5.6% 516,502 -19.1% 222,546 -38.7% 48.1円
2020年3月期 8,767,263 -7.5% 661,883 -12.3% 180,268 -65.1% 87,596 -60.6% 18.9円
2021年3月期 8,729,196 -0.4% 495,180 -25.2% 844,443 368.4% 501,613 472.6% 108.4円
2022年3月期 10,264,602 17.6% 738,236 49.1% 839,333 -0.6% 583,470 16.3% 126.0円
2023年3月期 10,881,150 6.0% 748,144 1.3% 819,971 -2.3% 649,124 11.3% 140.2円
2024年3月期 9,728,716 -10.6% 755,816 1.0% 825,801 0.7% 589,896 -9.1% 127.4円
2025年3月期(予 ) 9,000,000 -7.5% 855,000 13.1% 850,000 2.9% 600,000 1.7% 129.7円
※売上高、利益の単位は100万円

みずほでは白物家電や日立ハイテクの半導体製造装置など下振れリスクは懸念材料としながらも、全体は上振れ基調とみて、26年3月期の営業利益は今期予想比14.4%増の1兆300億円と1兆円の大台乗せを予想している。市場コンセンサスは1兆700億円程度、大和証券予想は1兆240億円で、大きな波乱がなければ1兆円乗せは可能とみられる。

また、中期的な成長期待が高いDX、GXは、国内で業務効率化のためのIT投資が拡大しているほか、地方自治体でもシステムの刷新が進められている。
グリーン関連分野では、AIの普及に伴い不足が懸念される、電力と電力網などの関連設備投資が追い風になる。既に日立エナジーが高水準の受注残を抱えるなど、先行き明るい。

株価は多くのハイテク銘柄の天井となった7月11日に3,892円(分割考慮)の上場来高値を付けた。8月5日にかけての暴落では2,584円まで売られたが、16日には3,660円まで急回復。中長期のトレンドには安心感がある。

高炉3社の投資指標
コード 5401  5411 5406
銘柄 日本製鉄 JFE 神戸製鋼
PER(倍) 8.9 5.9 5.5
PBR(倍) 0.63 0.49 0.63
配当利回り(%) 5.0 5.8 5.3
配当金(円) 160 110 90
※14日時点

最大手の日本製鉄(5401・P)は2025年第1四半期(1Q、4~6月)の売上収益が前期比0.4%減の2兆1,915億円、事業利益から在庫評価差などを控除した実力ベースの事業利益が同22.0%減の1,950億円と減収減益だった。

通期についても厳しい経営環境を想定しているものの、鋼材需要は内需が厳しい一方、輸出で減少分をカバーし、ひも付きと呼ばれる大口需要家向けでスプレッドを確保できている。同社が得意とする高付加価値品の電磁鋼板など拡大、継続的なコスト削減などの寄与が見込まれる。通期の業績予想は上方修正されている。売上収益は前期比0.8%減の8兆8,000億円(従来予想と変わらず)、実力ベースの事業利益は同16.5%減の7,800億円(従来予想は7,500億円)となる見込み。

中長期経営計画の最終年である26年月期には実力ベース事業利益9,000億円以上を目指しているが、今期実施する構造対策効果400億円程度に加え、高級鋼などへの設備投資効果の発揮、インドなど海外事業などの拡大により確保に取り組む方針だ。

また、今回の決算ではUSスチール(USS)の買収に向け、様々な対策を実施し、実現に自信を示したことも注目されている。森高弘副会長兼副社長が州知事や政治家、USW(米国鉄鋼労働組合)の組合員などと面会、買収に対する理解が進んでいるとの認識だ。

JFEHD(5411・P)はどうか。1Qの売上収益は前年同期比4.0%減の1兆2,111億円、事業利益は同32.9%減の569億円だった。通期の業績予想は日本製鉄とは逆に下方修正となった。売上収益は前期比1.3%増の5兆2,400億円(従来予想は5兆3,900億円)、事業利益は同12.8%減の2,600億円となる。鉄鋼事業での数量減が響く。単独の粗鋼生産量は2,300万トンと前回予想から40万トン下方修正され、前期からは45万トン減る。一方、エンジニアリング事業は好調が続く。

神戸製鋼所(5406・P)は1Qの売上高が前年同期比1.3%減の5,907億円、経常利益が同2.4%減の350億円だった。鉄鋼、機械が堅調だったものの、電力事業がマイナスだった。通期では売上高が前期比1.3%増の2兆6,600億円、経常利益は同6.8%減の1,500億円と期初予想を変えていない。

同社の場合、大手2社と比較して鉄鋼のほかアルミ、素材、機械(建設機械・油圧ショベル)、エンジニアリングなど事業構成が多角的という特徴がある。鋼事業では自動車向けなどが厳しいものの、メタルスプレッドの改善などで計画線を確保できるもよう。アルミ板・素形材では半導体やHDD向けなどIT関連分野での販売が伸びる見通し。建設機械ではエンジン認証不正問題の影響が段階的に解消する見込みだ。

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