ミッションは「株主価値最大化」
塗料事業は成長産業か、それとも成熟(斜陽)産業なのか…。今12月期連続2ケタ増収増益見通しにして、8月に通期の収益予想の増額修正(25.1%営業増益→41.1%増益)も実施した日本ペイントHD(4612・P)だが、株価は1,100円を中心とした膠着(こうちゃく)状態が1年半に及んでいる。アジア首位・世界4位の大手だけに、不動産バブル崩壊説も語られる中国事業への懸念などが背景にある様子。もっとも、そこには市場の“誤解”もあるようだ。同社の若月雄一郎社長(写真)に話を聞いた。
――海外売上比率が86%と高い。先の増額修正も円安効果が主因か。
「為替の影響は約半分。残りはアジアの建築用を中心とした数量増やシェア向上によるものだ」
――塗料というと、住宅などの新築件数や自動車販売に左右される不安定なイメージだが…。
「日本にいるとそう感じるが、実は、家の内装が(塗装ではなく)壁紙中心なのは日本と韓国だけ。他のほとんどの国は“塗りの文化”で、生活を彩る塗り替えの比重が大きい。特に人口増加や都市化が進み、1人当たりGDPが上昇している地域での塗料需要の伸びは顕著だ。また、一口に塗料と言っても、耐久性を高めるコーティングをはじめ、耐熱性、耐火性や抗菌・抗ウイルス性など様々な用途開発が進んでいる。塗料市場は基本的にGDP成長率に数%プラスアルファした伸びが想定される」
――主要な地域の順位やシェアはどの程度か。
「業界トップは日本のほか、中国、マレーシア、シンガポールなど13カ国を数える。建築用(DIY)の数値で、販売店ルート(TUC)は中国24%、シンガポール75%、マレーシア45%、インドネシア18%となっている。インドネシアは僅差の2位だが、利益率が非常に高い。販売店にCCMという機械を入れてもらい、その場で調色するため1,000通り以上の色を選ぶことができ、(安物を連想させる)ディスカウントを嫌う国民性ともマッチしているようだ」
――既に高いシェアをさらに伸ばすのは容易でないのではないか。
「むしろ逆だ。販売店では有名ブランドの『売れる製品』を置きたがる。そもそも塗料市場は、一握りの大手と無数の零細業者で構成される国がほとんど。大きな設備投資がいらないことが背景で、集約が進んでいない。とはいえ、環境対応への要求が強まる昨今、中小業者には厳しさが増しており、技術面の差別化とも相まって我々にはシェア拡大のチャンスだ」
――技術面の差別化?
「いろいろあるが、例えば当社が開発した自動運転用特殊塗料『ターゲットラインペイント』は、4日まで栃木県日光市で開催中の自動運転実証試験に提供している。山林やビルなどGPS(衛星測位システム)の届きにくい地域でも安定した走行を助けるものだ」
――やはり気になるのは中国。厳しいのでは。
「昨今の不動産市場の低迷で打撃を受けるのではないかという株式市場の疑念は理解できる。中国のデベロッパーが重要顧客であることも間違いないが、1社1社のウエートは大きくない。そもそも当社のビジネスモデルは新築に依存していない。中国では2000年代前半までの10数年間に、ものすごい数のコンドミニアムが建設された。これから大規模修繕期が本格化してくるので“大塗り替え時代”到来ととらえている。既にシェア8割を握っていたら悲観的にもなろうが、むしろシェア拡大のチャンスと感じている」
――8月に親会社のウットラムからインド事業買い戻しを発表した。
「人口増加が続き、1人当たりGDPの拡大するこの国はやはり外せない。南部2州に特化して展開しているが、これだけで人口1億4,000万人と日本を上回る。低いシェアを高めるのは大変だが、ウットラム傘下で2州とも業界2位に向上してきた」
――ここまで聞いて有望そうなのは分かったがそれにしても株価が…。
「株主価値最大化こそが唯一最大のミッションと考えている。増資をすれば増える時価総額の話ではない。株主価値は『1株利益』と『PER』の掛け算。前者は主に、ともに共同社長を務めるウィー・シューキムが担う。1株利益が向上しながら株価が上がらない現状は遺憾だが、近年のリスクを抑制したM&A戦略もうまく機能しており、当社の成長に確信を持っていただけるようになれば、自然に評価も高まるものと信じている」(K)