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トップ記事2023年3月13日

日本経済浮上への“最後のチャンス” 三井住友DSアセットマネジメント 宅森昭吉氏に聞く

今がたけなわWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の勝敗から桜の開花時期、ラニーニャ現象の影響、競馬の売上金額や自殺者数の推移に至るまで…。あらゆる「身近なデータ」を景気分析に取り入れて、実際に高い予測精度を保ってきたのが三井住友DSアセットマネジメントの宅森昭吉(たくもり・あきよし)チーフエコノミスト(写真)だ。“都銀で最初のマーケットエコノミスト”としても知られるこの道40年の大ベテランだが、3月末で退社し、今後は「景気探検家」を名乗ってフリーで活動していくという。宅森氏に、これまでの歩みや長年の経験を踏まえての現在の経済環境などについて話を聞いた。

――エコノミスト人生の出発点は何か。

「三井銀行で3年間の支店営業を経て、1983年4月に研修生として日本経済研究センターに出向したことだ。銀行に戻った後も一貫して経済調査に取り組んできた」

――都銀で最初のマーケットエコノミストとか。

「当時のエコノミストは年間のGDP予想が基本だったが、顧客である機関投資家のニーズに応えてマネーサプライや貿易統計など毎週発表される多くの指標についても予想を始めた。銀行界には、出してすぐ外れる可能性のある予想を忌避するムードがあったが、三井は比較的開放的な社風であり、度量のある上司にも恵まれた」

――それでも外すと。

「もちろん厳しいことを言われることはある。だからこそ、はっきりした予想の根拠を示すことを心掛けてきたし、幸いにして予想精度は高かったと自負している」

――実際に、近年も多くのエコノミストが参加する「ESPフォーキャスト調査」では何度も表彰された。予想の際に重視してきたことは何か。

「確実に分かる数字を積み上げることだ。例えば米国の四半期GDPであれば、最もウエートの大きい個人消費に関して、既に公表されている2カ月分の個人所得・支出の個人支出で計算して、残りの1カ月分も小売売上高で代用するといった手法だ。日本においては、総務省や日銀が公表している各種統計をはじめ、幅広いデータを360度見回して、一番近いものを当てはめて対応している」

――宅森さんと言えば「身近なデータ」だ。

「身近なデータの良さは通常の経済統計とは異なる圧倒的な速報性にある。もちろんこうしたデータによる分析が100%当たるわけもないが、一定以上の確率が保てるのなら、事前に危険を知らせる“予告信号灯”としての役割は大きい」

――こうした分野に着目したキッカケは何か。

「プロ野球で阪神が優勝した85年に、関西出身者の多かった債券ディーラーと話していて、チームの勝敗と株価推移の相関性に話題が及んだのが発端だ。その後も多くの分野に関心を寄せた。その1つで、まだ日銀の政策決定日が不定だった頃に言われたのが『仏滅の日は金融政策変更がない』だ。唯一の例外が2007年2月の利上げ。当時『やってはいけない』というレポートを出したが、案の定、最後の利上げになってしまった」

――WBC絡みの宅森さんのレポートは2月24日付本紙で紹介した。

「過去4回の大会では試合結果が日経平均に反映される例も目立ち、第2回大会決勝ではリアルタイムで連動していた」

――近年の日本経済についてどう見ているか。

「強気のコメントをしたいのはヤマヤマだが…。12年末のアベノミクス始動で持ち直してきたものの、財政によるサポートや成長戦略など第2、第3の矢が不十分なため、肝心の民間設備投資が海外に向かってしまった。超低金利を“ぬるま湯”とせず、ここで本物の成長力を付けて、その後の金利上昇にも耐えられる体質とするのが本来の趣旨。80万人を割った出生数が、丙午(ひのえ・うま)の26年にさらなる低下とならないかも心配の種だ」

――もう少し短期的な視点で見るとどうか。

「WBCもそうだが、桜の開花時期が早まりそうなことに期待している。平年(3月24日)よりも4日以上早かった年で景気後退となったのは過去11回中、コロナ元年の20年だけだ。そして、開花から満開までが長いほど景気も良好なため、開花後は少し気温が下がってくれるといい」

――猛暑厳冬をもたらす「ラニーニャ現象」は収束しつつあるが…。

「昨今の電力事情を踏まえれば、猛暑よりも平常な夏の方が好ましい。短期的には景気にプラスとなる事象が多い。さらなる高齢化が進む前の日本経済浮上の最後のチャンスを生かしてほしい」(K)