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トップ記事2023年1月23日

激白! レオス・キャピタルワークス 藤野英人社長  「ひふみ」運用責任者復帰の理由、レオスのこれからを語る

ゲームチェンジを視野

レオス・キャピタルワークスを2003年に設立、代表取締役会長兼社長、最高投資責任者(CIO)を務める

レオス・キャピタルワークスが運用する日本最大規模のアクティブ型株式ファンド「ひふみ」シリーズ。その中核となる「ひふみ投信」のマザーファンドの運用責任者に2023年1月1日付で藤野英人氏(写真)が復帰した。藤野氏に復帰の狙い、投資着眼点などを聞いた。

――2022年4月に運用責任者を離れてから9カ月ぶりの復帰となります。復帰をアナウンスするリリースに「苦渋の決断」とある。

「苦渋の決断という言葉を出すのも苦渋の決断だった。社内でも大変な議論となり、戻ってくるのが嫌なのかというニュアンスがあるのではと話したが、やはりリアリティがちゃんとあった方が良いということでその言葉を出した。苦渋の決断という言葉を出したことは結構重く、それはなにかというと、戻ることについて必ずしも良いと思っているわけではないというメッセージが込められている。もちろんお客さまのために僕は戻るのだが、それが長期的に見て会社として良いのか、個人として良いのか、ということに関しては結果が出ないと分からないという意味合いもある。最近だと永守さん(日本電産)、孫さん(ソフトバンクグループ)など、彼らと比べるのもおこがましいが、稀代の名経営者ほど「後継者問題」があり世代交代がなされていないと言われている。最終的にはお客さまのことを考えて決断したが、いろいろな意味で仕方がなかったところでこの言葉を選択した」

バトンミス

――復帰の背景、理由。

「私自身が社長でありファンドマネージャーでもあるところで、ファンドマネージャーの仕事を減らして社長の仕事に専念することにしたが、運用業務そのものが昨年から厳しくなる中で自分も1枚戦力として戻り、マーケットと向き合わなければならないと考えた。22年はパフォーマンスそのものが出なく、特に11月はインデックスに対し1・6%負けた。10月までも負けていたが、11月も勝てなかったことが最後のトリガーとなり、(前任者の)佐々木靖人氏と対話して一回セットバックしてもらい、僕のサポーターとして脇で頑張ってもらって一緒にマーケットを乗り切っていこうと考えたことが今回のファンドマネージャー変更の経緯」

「佐々木氏にバトンを渡す時期が、ある面で悪かったかもしれない。下げ相場の厳しい時、かつ、アウトパフォームできなかったので仕方のないことだが、あらゆる批判が彼のところにいった。日本最大規模のファンドで注目度も非常に高いところでファンドマネージャーが代わり、その結果が思わしくなかったので結局比較されてしまったり、悪く書かれてしまったりした。彼は強い人なので精神を病んだということはなく頑張っていたが、相当厳しい状況にあった。また、22年もそうだったが、23年も難しいマーケットになるとみている。これから上げ相場が来るとは思っていなく、しばらく厳しい相場が続くとみている。日銀の緩和政策の出口問題も出てくるし、金利も上昇傾向となり、日本株および日本経済は大きな転換点を迎える。さらにウクライナ戦争終結の兆しはなく、米国はFRBのタカ派姿勢は止まっていない、中国は習近平体制が維持強化され、台湾に対する強い意欲を隠そうとしない。地政学的リスクが極めて高まる中、エネルギー問題が戦争もありクローズアップされ、誰がやっても難しい状態になる中で、私が戻り、総力を挙げてチーム全体で闘う形で頑張らないといけないと思っている」

24年も難しい相場

――22年に続き23年も難しい相場になると。

「根本的に24年も難しいと思う。単純な相場は終わっており、しばらく難しい相場が続く。特にこれまで意識しなかった地政学的リスクが相場や政治、経済に影響を与えるようになり、ゲームの仕方が変わってきた。さらに歴史観では大転換が22年ぐらいから起きている。コロナによって結果的に世界の経済、政治が激変し、すべてインフレ方向に圧力が掛かった。コロナがなかったら日本もインフレになっていなかったかもしれないし、ひょっとしたら戦争になってなかったかもしれない。いろいろな意味でコロナが社会的な影響を与えていると思う。こうした中でひょっとしたら日本で大転換が起こるかもしれない」

「私は1990年に社会人となりこの世界に入り中小型株のアナリスト、91年からファンドの運用を始め、30年ほどこの業界で多くの経営者に会ってきた。日本株は1989年12月をピークに下がっていったが、90年代前半に上場してきたのはほぼ100%がインフレ経済で成功してきた人。バブル崩壊までの30年ほどインフレが続き、借り入れして不動産を買うか、株を買うと成功する時。インフレ経済の勝者、覇者は押し出しも強くてパワフルだった。しかし、バブル崩壊を起点にデフレ経済に変化したことで、その人たちはバブル崩壊から10年で表舞台から消えた。『インフレからデフレに変わる』という“ゲームチェンジ”がいかに恐ろしいか、社会人初期に学んだ」

「そして94、95年あたりから後に『デフレの申し子』と呼ばれる企業が生まれはじめた。ニトリ、ユニクロ、サイゼリヤ、100円ショップなどで、それらは2000年にかけて巨大化してきた。この30年はデフレの時代だった。今、日本の多くの小型株はデフレの中で生きてきた。基本的に価格を下げ、給料をなるべく上げず、良いものを安く売るというのが時代の正義で、その覇者たちがひしめいている。でもひょっとしたら今後30年は変わるかもしれない、2050年までの大きな転換期が来ているかもしれない、とみておいた方がいいと考えている」

「金利と物価が上昇傾向、イールドカーブ・コントロール(YCC)の見直しが昨年末にあり、年末から大発会に向けて金融株が爆騰した。これは一時的な現象かもしれないが、僕が社会人になった1990年は日本の都銀株は世界の時価総額ランキングのトップクラスにあった時代だった。その時代に戻るかどうかはわからないが、過去と同じ未来にはならないだろう。だから金融株が全面的に復活するという未来はないとみているが、一方でおそらくこれまでの過去の30年間と違い、揺り戻しが長期間続くかもしれないと考えている。そうするとそれに対応しなければならない。それに対応するには強いリーダーシップが必要で、考え方を変えるとか、考え方を変えなくともよいが、違う考え方をしてみるなど、デフレ一辺倒のコスパ主義からの脱却をポートフォリオ上でも表現していくことが必要になるかもしれない。もしこうした大転換が本当に起き、それをひふみが見事にとらえることができたら、また5年、10年というタームでみると、強いひふみとなるだろう。意識変革が大事になってくる」

GAFAMの次

――かつてのインフレとこれからの30年のインフレでは銘柄の主役は異なってくるということでしょうか。

「1990年に戻るのかというと例えばセクハラ、パワハラが跋扈した時代に戻るとは思わない。戻らない過去もある。たぶん突き進んでいく未来があって、変える方向性と変わらない方向性があり、イノベーションも起こり続ける。実際に1995年から2000年にかけてイノベーションの革命が起き、デフレの勝者だけでなく、イノベーションの変化、特にインターネットの台頭に乗っていった会社も勝った。1990~2020年の流れで見失っていけないのはデフレの勝ち組だけではなく、イノベーションのチェンジによって成功した会社があり、主役になっていること。GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)がまさにそう。2020年から2050年にかけてもイノベーションの変化を起こしていく会社は強いだろう」

デフレ一辺倒のコスパ主義からの脱却をポートフォリオで表現

「おじさん企業」と「テンバガー」の両面戦法

書道家の武田双雲氏による書
「火風水土心」

「ひふみ」という名前のもう一つの意味、由来を表す。「火(ひ)」は攻める姿勢、「風(ふ)」はテーマ性、「水(み)」はディフェンシブ、「土(とう)」は守りながら増やす、「心(しん)」はすべてを包む、万物を成す4つのものに通じる心を持ちたいという願いが込められている。武田双雲氏と藤野氏は仲が良く、ご縁で特別に書いていただいたという。オフィスの受付近くに飾られている。

「いわゆる旧態依然の『おじさん企業』に投資すればいいというわけでもない。一方で『おじさん企業』がむざむざやられるような社会ではなく、ゲームが複雑になると思う。おじさん企業も最近変わってきており、そこはとらえていきたい。ひふみは2008年にスタートし、おじさん企業、時価総額上位企業を無視したことがアルファの源泉、相場に勝てた要因だった。なぜ少し前までひふみが特有のパフォーマンスを示すことができたのかというと、極端だったこと。他の運用会社は時価総額上位200社に張り付き、調査時間の80~90%を下がる銘柄群に充てていた。この構造がひふみの勝ちパターンだったが、今は時価総額上位200社を無視すれば勝てる時代ではないというのが、僕のもう一つの考え。むろん、次の未来は時価総額上位200社の会社が大きくなるのか、いわゆる古いおじさん企業が太るのかというとそうではなく、次の時代を担う新しい価値観や変革の意識を持った人が成功してくる。日本の大企業も変わり、経営層は50歳から65歳ぐらいになり、団塊の世代をほぼ抜けた。意識は若く、グローバルの感覚を持った人が増えている。2003年ぐらいだと『ど・おじさん』でいわゆる年功序列主義で古いしきたりを重視し変革意識が乏しい人たちで占められていた時価総額上位企業の中に変化が生じているというところが大事。これからインフレ社会になった時、それをとらえて成功する会社、そうでない会社に分かれ、そうすると『大型株全般がやられた世界』から『大型株の中で勝ち負けがはっきりする時代』がこれからの10年。それをどれだけとらえることができるかがパフォーマンスに大きな影響を与える。レオスのメンバーに今年に入り『大型株をみよう。大型株から良い会社を選んでくれ』と話している。僕らはこれから2つで勝負する。1つは大型株かつ優れた大型株、“かっこう良いおじさん”を探して確実にとらえる。もう一つは株価が10倍になるテンバガーの発掘。このようにして銘柄選別の鮮やかさをさらに強化しようと話している。

――かっこう良いおじさんの条件。

「かっこう良いおじさん企業というのは意思決定ができ、美意識を持っているとか、人間とは何かということに対して深い理解があるとかというようなことだと思う。グローバルの観点の格好いい経営者が日本の中から出てくるだろう。場合によっては外国人の経営者かもしれないし、海外経験のある日本人かもしれないし、ドメスティック企業だがそういう感覚を持っている人が出てくるかもしれない。そうなるとしがらみや古い慣習、資本市場に反した反資本主義的な考え方から脱してくる可能性があるだろう。この部分をとらえられないとだめ。10年経って、そうした変化をした会社をひふみはとらえられなかったとなると格好悪い。出ないかもしれないが、出るという前提で探そうと言っている」

「これまでも大型株に投資してこなかったわけではないが、どちらかといえば必要な要素に合わせて調査しながら自動車株や電機株を選んできた。今後は時価総額上位を網羅的に目を皿のようにして見るようにし、5年、10年の変化をとらえていく。一方で大学2年生から目を付け、レオスに来てくれと言い続けてきた人が昨年、新卒で入社した。その彼に僕はテンバガーをみつけてくるようにオーダーを出した。センスが非常に良いので多分、テンバガーハンターになると思う。もう一人、中堅と2人でテンバガーハンターとして活動し、そこに僕も加わり一緒に探す。このように両サイドから攻めていく」

「佐々木さんは真面目な人だから、ひふみという巨大ファンドをどのようにして市場に勝たせるのかという観点で考えていた。それは悪くないが、HOW(どうやって)ではなく、Be(どうありたいか)が大事。新しい時代の方向性を探してその会社を発掘していくことがひふみの存在価値で、それを大型株と小型株で発掘し、ポートフォリオで表現して成果をみせるようにしていきたい。それがアクティブだから。もちろんインデックスに対し勝つか負けるかという観点はあるが、アクティブは意図をもって選ぶことが大事。僕らは意図をもって銘柄を発掘するということをより明確にする。より原点回帰だが、ひふみも変わらないといけないから今申し上げた世界観の中でポートフォリオを変化させていきたい。佐々木さんには“助手席”に乗ってもらい、助手席からまさに助手として一緒に同じ方向性をみてもらってサファリラリーに挑んでいくという感じ」

原点回帰で悪路を楽しむ

――ポートフォリオは投資哲学の表れなのですね。

「そうです。それをより明確により楽しくできたら。僕らは個別銘柄について語れないが、どういうことが起きていてどういう視点で銘柄を選ぶのかは語れると思う。こんな卓越した社長が現れたなど要素は話すことはできると思う」

「かっこう良い人とは自分のスタイル、自分の在り方をもっていると思う。昨日会った人に影響されて言うことが変わるというのは社員からみても格好良くない。もちろん自分の考えにとらわれていて頑固とは違うと思うが、必ず自分があり咀嚼して美学がある人がかっこう良い。そういう人を探していきたい。そしてやはりグローバル企業に多いように思う。ドメスティックな会社だからダメというのはないが、世界で仕事をしてきた経験のある人に相対的に多いように思う。海外赴任経験や外国人と働く経験、違う国や文化と混じってコミュニケーションした経験があるかとか、順風満帆だったが途中で左遷された人とか。多分、ごはんを一緒に食べて面白い人」

――たしかに話題は豊富そう。

「ごはんを一緒に食べてつまらない人には投資しないというぐらいで、すごいシンプルでいいんじゃないかなと思う。ごはんを一緒に食べて楽しかった人に投資する、で成功する気がする。たまに経団連系の人に会うと、健康の話と勲章の話しかしない人が多かった。健康と勲章の話をしない人に投資するだけでも成功するような気がする。あと趣味のある人が良い。仕事以外のミッションのある人、家族をどちらかというと大事にする人。『私の履歴書』の最後に申し訳程度に、『私は家族とはほとんどコミュニケーションをせず、妻には迷惑をかけたが、ここに感謝の意を述べたい』と書く人は避ける」

「でもかっこう良い社長は出てきているような気がする。レオスのメンバーの調査からさらに何が出てくるか、それを楽しみとしたい。今年の僕らの社内標語は『声出していこうぜ』。とにかく明るくコミュニケーションし、自分の意見をばんばん表現できるようにしたいと考えている」

――昨年の社内の雰囲気を知らないが、また元気になりそうですね。

「そうですね。やっぱり多少暗くなっていた。良くも悪くもすごく真面目で、みんなの話を聞いてシュンとしたり、どうしようかというのがあって、僕らがどうしたいのかというところがだいぶなくなっていた気がする」

――藤野さんの後釜となればかなり重圧があったでしょうし。

「そういうことを一緒にやってく中の延長線の中でパスできたらと思っている」

――今年の投資の標語は。

「『悪路を楽しむ』でしょうね。難しい相場と思うが、でも下げた時はチャンスですからね。価値観の変化も出てくるから今までの負け組企業が勝つかもしれない。また、過去30年間、銀行株、地銀株は低迷し、PBR0.2倍、0.3倍もざらにあったが、0.9倍、1倍ぐらいまで戻る会社が出てくるかもしれない。すると株価は3~5倍になる可能性があることになる。でも全部はそうはならない。それは格好良い頭取を探せばきっとそうなると僕は思う。そこが結構おいしそうな感じ。これから金利も上昇してくる。金利が復活するということは銘柄選別が厳しくなり、調達金利も上がるので簡単ではない。プラスアルファを出せる会社かどうか、融資先を見る目も問われてくるが、その時にやはり時代を創っていくのだ、産業を興すのだという気持ちが多少ある銀行の方が伸びると思う。当社の佐々木の最後の仕事で画期的だったことは何かというと、銀行株をオーバーウエートしたこと。だから12月はマーケットに勝っている。12月は日本のアクティブファンドマネージャーの大半がボロ負けだった。それは銀行株をアンダーウエートしていたから。その意味では佐々木は最後に大仕事をやってのけてパスしてくれた。12月はこの厳しいマーケットでひふみはアウトパフォームした。彼の残したものを引き継いで、さらに未来志向でポートフォリオを作っていく」(Q)