Heartseed(219A)が7月30日、グロースに新規上場した。世界初の心筋補填療法を開発し、世界の死因第1位となっている心不全の根治を目指す。初値は公開価格を33・4%上回る1548円。上場当日の会見で、福田恵一代表取締役社長=写真=が語った内容のポイントは次の通り。
世界で6500万人の患者……心臓の筋肉が一部失われてしまう病気が心不全。心筋梗塞その他の心臓病で心筋細胞が死んでしまう。心臓の筋肉が少ない状態で心臓が収縮しなければいけないということで、心不全になる。何回か心不全を繰り返すうちに亡くなっていく。根治治療は心臓移植のみだった。世界では6500万、日本には130万人の患者がいるとされるが、移植以外の患者は諦めているのが現状。心臓の筋肉を心臓の壁の中に移植するということは昔から非常に有効な治療法だろうといわれており、当社が世界で初めて実現できた。
慶応大で長年の実績……私は慶応大学の再生学教室、循環器内科教室の教授を務め、基礎、臨床医学の両方をやった。心臓領域の再生医療を具現化することを研究のテーマに掲げ、29年間この道一筋に研究開発を続けてきた。1999年に世界で初めて骨髄の細胞を心筋に作り替えることができた。世界で心臓の再生医療のブームをつくったのが私と認識している。常に世界初のものを次々と作り出すことで、心臓再生医療を具現化してきた。この領域を誰よりも深く理解している
非常に分かりやすい治療法……iPS細胞で心臓の筋肉を作り、心臓の中に移植するために、心臓の筋肉の微小な心筋細胞の1000個ほどの塊「心筋球」を作ることで、安定して移植できる。われわれのいくつもの技術開発が可能とした。移植された心筋細胞はそのあと、30倍に大きくなる。治験では約1グラムの心筋細胞を移植して、最終的には30グラムぐらいの心筋を作り、心臓に生着させて心機能を良くする。非常にわかりやすい治療法だ。
世界からも注目……われわれは特許や様々なノウハウを持っている。1滴の血液中に含まれるリンパ球からiPS細胞を作る技術を開発。特異的な心室筋を作り出すことができ、心室の中に移植するので安全に移植できる。心筋細胞のみを純化精製する方法の特許は非常に強い。そして、心筋球を開発した。技術開発はグローバルで非常に高い評価を得ている。2023年には治験の1例目を投与したときに、ネイチャー誌が特別記事を掲載し、「いよいよ心筋補填療法が始まった」と報道され、世界的に注目されている。
ノボ社との提携で世界168カ国に……(デンマークの世界第2位の製薬会社)ノボノルディスクと他家ⅰPS細胞由来心筋細胞、心筋球を世界で販売する技術提携、ライセンス契約を結んでいる。日本国内は50対50の利益配分となる。そして、日本のバイオベンチャー史上最高額となる5億9800万ドル(約910億円)の一時金、マイルストンが定期的に入る。海外の治験、製造、販売をノボ社が担当し、治験費用も出す。当社は海外の売り上げに応じてロイヤリティを得る。ノボ社は世界168カ国に販路を持ち、スムーズに世界に製品をもっていける。心臓の中に心筋細胞を移植しようという試みは米、中の企業もやっているが、米国の2社は臨床治験入りできず、中国企業もフェーズ1。世界で当社がリードしている。
治験終了から2年半程度で上市へ……現在開発しているパイプラインのうち、開胸手術の他家iPSで細胞由来心筋球のHS-001はLAPis試験(フェーズ1/2試験)で現在、治験の半分を終了したところ。低用量の5000万個の心筋細胞移植は、本日発表したように安全性評価委員会で問題なしと承認を得て、高用量の1・5億個に進むことになっている。これまで5例に投与し、半年経過しているのが4例。このうち3例に著しい改善がみられる。残り1例は重症患者で進行性疾患により(全体的には)悪化しているが、移植した場所は良くなっている。今年度中に参加患者を確保し、最終症例の投与から1年の観察期間、データをまとめる期間や評価をまとめる期間を合わせて2年半ぐらいかかると思う。そこで評価されれば世に送り出せる。可及的速やかに多くの患者に使ってもらいたいと考え、その過程の中で黒字化されると思う。
次はカテーテル治験……また、そう遠くない段階で、引き続きカテーテル治験(HS-005)を始めたい。準備は鋭意行っている。ノボ社と共同で提携し、カテーテル投与のグローバル展開を図る。日本は当社、海外はノボ社がやる予定。その先、自家iPS細胞を用いて、自分の細胞で心筋細胞を作る(HS-040)。小さな子どもやがん患者には免疫抑制剤を使わずに投与できるので、必要となる。さらに我々のプラットフォームを利用して他の領域にも進出したい。
日本初の治療法を世界へ……ノボ社との提携で、世界186カ国に非常に早い段階に普及することができる。日本で開発された治療法が世界に普及することは、それほど多くない。われわれは日本の中で成功例にならなければならないし、他の領域でいろいろな治療を開発している研究者や企業の先鞭(せんべん)となり、われわれの開発戦略を参考にしていただければと考えている。