「扇島」町内会発足、企業連合で土地転換を猛プッシュ
日本最大の工業地帯、京浜工業地帯に位置する「扇島」。神奈川県川崎市の臨海部に浮かぶ人工島に10月26日、町内会が発足した。
扇島町内会のメンバーは出光興産(5019・P)、ENEOSホールディングス(5020・P)、コスモエネルギーホールディングス(5021・P)、JFEホールディングス(5411・P)、JERA、東亜石油(5008・S)、東京ガス(9531・P)、東京電力ホールディングス(9501・P)、東京電力リニューアブルパワーの9社。いずれも扇島に土地を保有しており、JFE HDのほかはエネルギー関連企業という特徴を持つ。
日本屈指の企業群が町内会を結成――ここにはJFE HDの大きな決意が込められている。
「カーボンニュートラルポート」実現、川崎市と
扇島は600ヘクタールほどの人工島。大部分をJFE HDが保有して高炉など製鉄・製鋼設備を置く。しかし同社は2020年3月に製造体制の見直しを軸とした構造改革の実施を発表し、扇島における一部設備を23年9月に休止するとした。結果、扇島には222ヘクタールもの広大な遊休地が出現することとなった。
製造品出荷額の7割を扇島など臨海部に依存する川崎市はむろん、遊休地の利用検討で協働する。20年2月に協定を締結し、現在はJFEサイドと意見交換しながら22年末の「土地利用方針策定」を目指す。
4月に発表された中間報告によれば、キーワードは「脱炭素」。「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ目標」を掲げる国が、その具体策の一つとして注力するカーボンニュートラルポート(CNP)への転換を目指す。CO2排出量の約6割を占めるといわれる発電・鉄鋼・化学工業などの多くが立地する臨海部の産業拠点において、主に利用されている化石燃料を水素あるいは燃料アンモニアなど脱炭素エネルギーに転換するという取り組みだ。
扇島では、まず、建造物がほとんど存在しない原材料・燃料置き場と、これに隣接する貨物船が着岸して荷揚げを行う港について、鉄から、カーボンニュートラル燃料の受け入れ基地に転換。さらに、燃料を周辺のエネルギー関連企業に引き渡すといったサプライチェーンの構築を目指すとしており、これについてJFEサイドは2030年までの一部スタートを想定している。
路線価5倍超に? 資産価値激増の可能性
ちなみにCNP構想は遊休地活用の序章。面積でいうと3分の1ほどにすぎない。今後は扇島の地理的ポテンシャルを最大限に生かした活用が期待されており、中でも注目されるのがアクセスだ。扇島は羽田空港に近く、計画中の国道が開通した場合には車でわずか10分程度、ビジネスの中心部・大手町までも30分程度でつながる。
ところが現在、扇島へはJFE私道でしか渡れない。高速道路が通っているものの出入り口はない。隣の東扇島には国道357号線が通っており、これを伸ばす計画はあるものの着工は見えない。
とはいえ都市計画法による規制、現在のように利用を製鉄所に限定されている状態を変えるためには公道の敷設が不可欠であり、この課題は川崎市など行政も認識している。2030年のCNP一部開始までには改善されなければならず、そこでJFE単独ではなく「町内会」として今後は公道の敷設を強力に進めることに。
ちなみに路線価は扇島4万円程度に対して、先に開発に着手し用途を工業専用地域から商業施設に変更した東扇島は17万~18万円、場所によっては19万円と4~5倍の違いが確認されている。