ABEJA(5574)が6月13日、東証グロースに新規上場した。同社は大企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を総合的に支援するデジタルプラットフォーム事業を展開。初値形成は翌日に持ち越し、公開価格(1,550円)の3.2倍となる4,980円。上場当日の記者会見で岡田陽介代表取締役CEO(写真)が語った内容のポイントは次の通り。
AIベンチャーの老舗
ディープラーニングが発表された2012年に会社を設立し、AIの進化とともにこの10年成長してきた。
AI実用化には、「魔法の川」(AI=魔法ではないという理解)、「データの谷」(使えるデータが乏しい)、「精度の壁」(精度が100%になることはない)、「オペレーションのデコボコ道」(運用段階のチューニングを永遠にやり続けなければならない)という4つの大きな課題がある。実際にAI導入企業の63%はこうした課題に直面し、PoC(実証実験)の段階で止まってしまっている。
これをABEJAプラットフォームは、人がやっていたことを徐々にAIに移管していく“人とAIの協調”をつくりだすことで解消。当初より本番環境での運用を可能とするとともに、失敗が許されないようなミッションクリティカルな領域での実装に既に成功している。
事業モデルは、製造業に例えるとTSMCやFoxconnといったEMSに近い形態。ABEJAではDXに必要な工程を“デジタル版EMS”という形で、フルマネージドサービスで提供している。デジタル版EMSを採用することで、DXに必要な全工程に対応する最新の技術を継続的に利用できる。加えて、コストダウン、リスク回避、ケイパビリティの強化を実現する。
大口化と継続化による安定収益構造
事業は企業のDX推進の仕組みづくりをするトランスフォーメーション領域(フロー型)と、その後の運用をするオペレーション領域(ストック型)に分類されるが、継続顧客の売上比率は90%以上と実質的にストックに近いビジネスモデルと言える。
DX推進支援実績300社以上、プラットフォーム利用社数200社以上。また、ABEJAプラットフォームに関連する売上比率は80%以上を占めているので、他社にスイッチングしづらい状況だ。1社当たりの取引額も大きく伸び、取引の大口化と高い継続率によって売り上げが積み上げられる安定的な収益構造となっている。
DX市場でさらなる成長へ
成長戦略は、①顧客基盤の拡大と深耕②ABEJAプラットフォームの拡充③人材の採用、育成とカルチャーの醸成④ミッションクリティカルな領域でのサービス提供拡大――。基礎的な技術面における投資はほぼ完了しており、調達資金は主に①に75%、②に15%程度投じる予定。
②については、独自の大規模言語モデルを構築し、それをABEJAプラットフォームに搭載することで提供価値を高めていきたい。また、④についてはここがDX推進の“本丸”と考えており、当該領域でのサービス拡大を図る。(SS)