「テーマ」は売りのサイン!?
凄腕FMの思考を共有せよ
著名投資家の井村俊哉氏と、スパークス・アセット・マネジメント「スパークス・M&S・ジャパン・ファンド(愛称・華咲く中小型)」を運用する凄腕FM奥村剛成氏との対談。後編では銘柄選定について盛り上がった。
――バリュエーションについて聞きたい。PERなどの適正水準をどう考えているか。たとえば組み入れ上位のシークス(7613・P)の見た目は安く見えるが。
もともと受託ビジネスなので市場平均並みの水準が付くことはむずかしい。ただし、民生機器から車載向けにビジネスを大きく転換したタイミングで、先駆的に拡大できるとの期待感から15倍程度付いたことがある。その後は工場の稼働がうまくいかなかったりコロナ禍などで低迷が続いたが、ようやく正常化する中、とはいえ15倍回帰は楽観視し過ぎだろうとは感じる。対応は業績の戻りを見ながらになるが、ならば、自動車部品そのものが安いのではないか?といった別のアイディアも浮かんでいる。
――面白い!! ノーマライゼーションというアイディアからするとEMS(電気機器の受託製造)も自動車部品も構造は似ている。
バリュエーションを見たときにどっちが安いんだっけ?と。さらに、今までのような系列ではないカタチになってきたし、自動車メーカー側もむしろ非系列を増やしてほしいと思っている。
――「良い会社を安く買う」はもっともなのだが、その際に陥りやすいバリュートラップをどう回避しているのか。
私の経験だが、某自動車部品会社で業績がすごく伸びたのにバリュエーションが下がったことがあった。なぜかというと「内燃機関」だったから。バリュエーションは将来の成長性を反映するもの。業績だけでは株価の期待値は高まらない。内燃機関が無くなるのは相当に先なのだが、それまでに新しいビジネスの種を見つけて伸ばせるかどうかが重要だ。
――業種分散は意識しているか。
いわゆる33業種では、あまりみない。われわれで8、9ぐらいに分類している。「半導体テック全般」「金融・不動産」といった具合だ。
――ウエートはどのように決めている?
投資期間おおよそ3年程度という前提は変わらないものの、取材を通じて確信度合いが高まったり、カタリスト(材料)が見え始めているときにはウエートを増やす。逆もしかりで、ターゲットプライスに近付いてきたらいったん半分に落としたり、完全売却するケースもある。
――前田工繊(7821・P)が気になる。長らく組み入れ銘柄の上位に入っている。
ウエートを適宜調整しながら2015年くらいから保有している。F1でも使われている自動車の高級ホイールを作っていた企業が破綻し、これを前田工繊が買収。その後に業績改善したことなどがきっかけで株価がすごく上がったものの、市場期待値が過度に高まっていると判断したためウエートを大きく引き下げた。しかし1~2年後にはビジネス拡張余地や、既存の事業領域についても高速道路の補強材から河川、いまや防衛向けなどへと広がっていることを確認したのでウエートの積み増しを行った。
――高級自動車用品という観点だと、例えばSHOEI(7839・P)は高くバリュエーションされている。
高いブランドを持つ製品には「値上げ力」があり、収益性はまだまだ改善できるのではないか。営業利益率でいうとSHOEIが30%出ているのに対し、前田工織は10%台にとどまる。8月には次期中計の発表を予定している。
――新規の組み入れのタイミングは。
全て企業取材をした上で投資をしている。深い取材をしたいので年間の取材件数は300~400程度。その中で新規の取材先は100社ぐらい。
――注目のテーマはあるか。
テーマという言葉はあまり好きではない。「上がってほしい」という希望が込められていて、それに乗っかるだけ、になってしまう。最近だと、生成AIがどう業績に反映するかが分からないのに「ぽいよね」は、投資と言えない。逆に投資先がテーマに乗ってしまうと売り時だと感じる。
――業種ではどうか。
一つは土木・建築というインフラ系は面白い。今の不採算工事は東京五輪の工事が始まったころに焦って取って、工期が伸びたもの。その後はきちんと選別受注しており採算が良くなっている。再開発需要もまだまだあり、あとは個社の要因で銘柄を選べばよい。