オカムラ食品工業(2938・S)が9月27日、東証スタンダードに新規上場した。同社は青森とデンマークでサーモントラウトを養殖。自社グループ内で養殖・加工した商材を国内外へ販売している。初値は公開価格を52.6%上回る2,564円。上場当日の記者会見で岡村恒一代表取締役社長兼CEO=写真=が語った内容のポイントは次の通り。
海外では成長産業……水産事業には2つの大きな課題があり、その課題解決が当社の成長性につながると考えている。1つは水産物の原料の不安定さ。これは以前からあった話だが、昨今特に気候変動によってそれが激しくなっている。もう1つは日本国内においての水産物の消費の低迷。これが長い間続いている。この2つから、国内では水産業は衰退産業と捉えられている。ところが海外に目を向けると、水産業は成長産業と捉えられていて、特にノルウェーなどでは、成長産業であるがゆえに若く優秀な方が多数入る、魅力ある産業となっている。このような現実を踏まえて、当社としては国内で衰退産業と言われるこの水産業を「成長産業化」するべく、2つの課題を解決していきたい。
16年ぶりの青森県企業……昨今は特に中国による日本産の水産物輸入禁止とまさしく厳しい環境に置かれているので、当社が上場することで水産業にも少しでも光が当たり、勇気づけられれば幸いだと思っている。また、地元・青森県においては16年ぶりの上場ということで非常に地元の方々の期待も大きい。こうした期待を裏切らないように、当社が成長することにより地元の方々の資産形成につながるような経営を今後努めていきたい。
サーモンを中心とした垂直統合型ビジネス……養殖事業はデンマークと日本の青森県において、お刺身や寿司ネタとして大変人気のある生食用のサーモントラウトという魚種を養殖している。祖業である魚卵の加工事業については、昨今はサーモン関連ということで、特にサーモンの卵(イクラやすじこ)に特化して加工を行っている。海外加工事業は当社の自社工場であるミャンマー工場と、委託工場であるベトナム工場において、サーモンを原料とした寿司ネタを中心に加工。これらの商品を国内外に販売しているが、その販売においては海外卸売事業が非常に効力を発揮しており、シンガポールを皮切りにマレーシア、台湾、タイへ進出国を拡大させてきた。
世界で高まる生食用人気……サーモンにある程度特化している理由だが、ここ30年、世界中で生食用のサーモンの人気が沸騰してきている。この1つには和食ブーム、寿司ブームがあり、特にアジアにおいてはもはやブームとは呼べるものではなく、完全に日常食化している。それらの需要を背景に、また、その需要に呼応するような形で生食用のサーモンの生産量も世界で拡大している。一方、養殖大国と言われるノルウェー、チリは養殖可能エリアがそろそろ限界に近付いている。ノルウェーは資源課税、チリは新たな養殖枠の発給が難しく、デンマークにおいても新たなライセンスが取りにくいという状況を踏まえると、需要に応えるには青森県での養殖の拡大が必要であろう。そこにビジネスチャンスを見出して鋭意取り組んでいる。
2つの成長エンジン……1つ目は生食用のサーモン養殖事業の拡大、そしてもう1つはその販売先である海外卸売事業の拡大。海外卸売を始めたシンガポールは東南アジアの中では先進国といえども、例えば物流においてなかなか時間を守ってくれない、平気で欠品する、あるいは届いた荷物が溶けているといったことが日常で起こる。日本から進出する企業にとってはこういうレベルは耐えられない。われわれは日本品質をやることによって成長できると現地を見て踏んだ。そこにはニッチなマーケットがあって、日本企業にも非常に喜ばれるし、はたまたローカル企業にとっても素晴らしい品質とサービスだということで喜ばれる。それによって大きく成長してきた。このような成功モデルをいろんな国に同じようにやっていくことによって成長できると考えている。現にマレーシアや台湾、タイも同じような発想と同じような事業スタイルで徐々に成長している。(HS)