「キャラクターの会社」から「エンターテイメントの会社」に進化
2021年3月期の赤字転落から業績V字回復を果たしたサンリオ。1960年の創業以来、初めて社長交代を経験した大変革の年でもあったが、結果、「変えない・変わらない」企業理念や基幹事業を再確認し、「変わる」べき課題も明確になった。進化を続けるサンリオの「強み」と「これから」に注目してみたい。
【会社概要・直近動向】大変革の最中さらなる「成長」目指す
みんながなかよくできる世界を、事業を通じて体現したい。贈り物を通じて人と人をつなぎたい。そんな創業者の想いから生まれた同社は、「みんななかよく」という企業理念の下で、キャラクターを使ったビジネスに60年以上も取り組んでいる。
手掛けている事業は4つ。①自ら商品を企画して自社店舗や卸売り先、eコマース(電子商取引)などで販売する「物販事業」、②保有するキャラクターを他社に貸し出して対価を得る「ライセンス事業」。③国内2カ所で展開する「テーマパーク事業」、そして、創業者の孫であり2020年に代表取締役社長に就任した辻朋邦氏の下で着手している④「新規事業」だ。
①②③の既存事業については前24年3月期までの3年間で足場固めが完了したところ。事業そのものは変えず、いかに新しい時代に対応させていくのか。経営陣の若返りといった組織風土改革、物販などにおける構造改革などを完遂させて、赤字を出さない利益体質を実現した。そして今期から始まった新中期経営計画では、これまでのような「ハローキティ」をはじめとするキャラクターの会社から「エンターテインメント」の会社に生まれ変わることを目指している。
【新規事業】モノだけでなくデジタルもカバー
新規事業として注力しているのは「エデュテイメント」。エデュケーション(教育)とエンターテインメントを組み合わせた造語で、楽しく学ぶことを意味する。キャラクターを多用した幼児向け英語教材を開発した。
もう一つが「デジタル」だ。誕生日には贈り物を手渡しする代わりにSNS(交流サイト)でスタンプを送り合うなどコミュニケーションはリアルからデジタルに移行しており、同社はこの領域におけるキャラクター展開を強化している。
今年2月にキャラクターの世界に入り込めるバーチャルイベントを開催すると、約1カ月間で400万人超が来場した。6月現在で同社の各種SNSフォロー数は国内外に7,600万以上あり、この膨大なファンとの接点は今後、関心のあるキャラクターのイベントを企画して案内するなど、既存ビジネスとも、様々に組み合わせて活用されることがイメージされる。
【強み】多彩なキャラクターと「企画&提案力」
現在キャラクター数は450以上ある。14年には「ハローキティ」が売り上げの75%超を占めていたが、現在は30%程度にとどまる。「ハローキティ」以外のキャラクターの育成がうまくいっているためだ。
顧客に寄り添ったデザインの開発も長年行ってきた。例えば「ハローキティ」は1974年の誕生当時は横を向いて座っていたが、「動きがあった方が良い」という要望から76年には立ち上がらせた。耳に飾るリボンは創業者の「人と人をつなぐ」を象徴する重要パーツであるにもかかわらず、95年には当時ブームとなっていたファッションに寄せてリボンの代わりに大きな花を飾った。このような企画・提案力はライセンス事業においてクライアントにも向けられている。
【業績・株主還元】株価を意識した還元策で長期保有を呼び込む
先ごろ発表された第1四半期決算(1Q・4~6月)は、営業利益が107億4,600万円(前年同期比80.2%増)で、通期予想371億円に対する進捗率は28.9%と、業績の堅調ぶりが確認されている。
今期からスタートした中期経営計画では、最終年度となる2027年3月期の営業利益を「400億円以上」としている。さらに10年ほど先には「営業利益500億円」、そして「時価総額1兆円」を掲げており、これを達成するために会社側は、新規事業におけるゲーム開発や既存事業へのマーケティングなどで300億円規模、加えて、知見を効率よく得るためのM&Aや資本提携などで500億円規模の戦略投資枠を設定している。
IR(投資家向け広報)にも積極的だ。前期は株式分割(1対3)と増配に加えて、「ハローキティ50周年」記念配当を実施した。株主優待の長期保有制度も新設し、エンターテイメント企業として長く愛される企業となることを目指している。さらに会社側は配当のみならず、株価上昇によるTSR(株主総利回り)の拡大を重視している。業績のボラティリティから脱却し安定・永続成長を目指しており、今後の業績推移にも注目したい。
本稿は9月2日に名古屋市内で開催された個人投資家向け会社説明会におけるサンリオ経営管理本部IR室ディレクター関根寛子氏の講演内容からポイントを抜粋したものです。