国が資産所得倍増計画を掲げ、今年から新NISA(少額投資非課税制度)がスタートしたこともあり、若い世代を中心に投資家層が一気に拡大。金融庁によると6月末現在のNISA口座は2,427万口座に上る。だが、「資産運用に関する知識がない」「余裕資金がない」などの理由で、投資に踏み切れない人も多く、2,000兆円を超える家計の金融資産のうち、株・投信は2割に満たず、欧米よりも少ない状態が続いている。始めたとしても、8月5日の株価暴落や、メディアやSNS(交流サイト)で投資に否定的な情報を聞いて、不安になる人もいるだろう。そこで、現役世代を中心に投資を考えている人や初心者向けへのアドバイスをロボットアドバイザー最大手・ウェルスナビ(7342・G)の牛山史朗執行役員に聞いた。3回にわたってお届けする。
――なぜ、今投資が必要なのか。
牛山氏 今の現役世代は一世代前と環境が変わってきている。リタイア世代はある程度の終身雇用が前提で、何十年勤めた退職金と年金を使って老後を生活できる。自分の老後資金のことを考える必要はなく、退職金で初めて資産運用する人も多かった。
一方、今は働き方が多様化し、終身雇用も前提ではなくなってきた。退職金自体も年々減っており、年金も現役時代に比べてどのくらい使えるかの所得代替率が低下している。自分の老後資金は自分で準備しようというのが今の状況。預貯金で資産が増えるのならばある程度頼れるが、ゼロ金利が解除されたとはいえまだまだ金利は低い状況。私の記憶ではバブルのころの銀行金利は7%ぐらいあり、10年預ければ2倍になった。今はようやく金利が復活したとはいえ、0.1%程度。預貯金だけではリスクがある。 やはり働きながら資産運用することが、豊かな老後を目指すために必要となる。
もう一つ、物価の上昇への対応を考えれば、インフレに強い資産、株や不動産に資金を入れていくことが重要。また、インフレともかかわるが、円安方向になれば海外からの輸入価格が高くなる。円だけ持っていればよいのかというのも今の状況だ。
――老後2,000万円問題が話題になったが、年金だけでは足りないのか。
牛山氏 年金がまったく頼れないイメージを持っている人も一部いるかもしれないが、年金は一番しっかり頼れる。ただ、年金は老後資金のベースにはなるが、所得代替率が低下すれば、自分で用意する割合が増える。
2,000万円というのは分かりやすい数字だが、統計の平均から算出したもの。自分にとっての不足分はいくらなのか知ることが重要。老後の収入、支出がどのくらいで、毎月何万円不足するからこのくらい必要というのを把握する。ウェルスナビにはライフプラン機能があり、そのような考えに基づき、どのくらい準備が必要か可視化している。
日本は物価が下がり続ける特殊な状況だった。たが、今は緩やかなインフレを目指しており、2%程度のインフレを前提に備えていくことが必要。
――為替はどうなるのか。
牛山氏 円安、円高どちらに行きそうというより、自分にとってどちらの方が都合が良いか悪いかだ。現役世代は円で給料が入り、円高になると、グローバルでみた自分の収入は高くなる。海外のものも安く買えるようになる。逆に円安は海外から輸入するモノの値段が上がるため、特に収入が無くなった老後ではリスクとなる。円安リスクへの対策として、自分の資産に海外のものを持っておく。円安になれば自分の海外資産が値上がりするので、モノが値上がりしてもバランスがとれる。円資産に偏ると、モノが値上がりすることで資産の価値が下がる。自分の資産のバランスが大きく崩れないようにする必要がある。
◆牛山史朗氏
京都大学大学院で金融工学を専攻。三菱UFJ信託銀行、野村証券を経て2015年12月にウェルスナビ参画。アルゴリズム開発などを手掛けている。