QPS研究所・大西俊輔社長、CEOに聞く
「宇宙」への関心が再び高まりつつある。米中印などの国際開発競争が激しさを増す傍ら、昨年「14年ぶりの宇宙飛行士候補」となり話題を呼んだ日本人2氏の正式選定が近いとの見方も。そして、今夏の来年度予算概算要求では、複数の衛星を地球の周囲に配置して活用する「衛星コンステレーション」構築など宇宙関連の要求額が9000億円を越えた。追い風を受ける宇宙ベンチャーで、小型SAR(合成開口レーダー)衛星を開発・製造して宇宙から観測した画像データの販売を手掛けるのがQPS研究所(5595・G)だ。大西俊輔社長、CEO(最高経営責任者)=写真=に足元の状況や今後の展望などを聞いた。
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――「小型SAR衛星」の特徴は何か。
「各国の政府機関や軍などが運用してきたSAR衛星は何十年も前からあって、そこで撮像した画像は官公庁でも広く使われてきた。ただし、従来のものはマイクロバス並みの大きさで費用も膨大なため、たくさん飛ばすことができず、観測頻度もせいぜい数日から1日に1回程度に限られた。その点、2016年ごろから民間で開発が始まった小型SAR衛星では低コスト化が進んだことで、多数の衛星運用による観測の高頻度化が可能となった。当社で通常稼働しているSAR衛星は現在6~8号機の3機だが、今5月期中にあと4機、来期も6機の打ち上げを予定。27年度末までには24機、最終的には36機の衛星コンステレーション構築を計画している。そうなれば、約10分間隔での“準リアルタイム観測”が実現することになる」
――同じ小型衛星でも光学衛星とは違うのか。
「光学衛星は電力使用の少ない利点から現在数百機利用されているが、『晴れた日の昼間』という限られた時間帯でしか撮影できない点がハンディとなる」
――宇宙から撮影した画像データにどのような用途があるのだろうか。
「分かりやすい例は災害発生時の被害状況把握だろう。いざ発災すると自動車はもちろん、飛行機も難しく、ドローンにしても天候に左右されることがネックとなる。その点、SAR衛星なら発災直後から、どの道が通行可能でどこに土砂崩れが発生しているかなど深夜も含め即座に分析できる。災害以外でもリアルタイム把握の潜在需要は膨大だ。現在の官公庁中心から将来的には民間領域の拡大も図っていきたい」
――同業他社などは。
「国内にもう1社と海外3社。当社含め5社となるが、市場自体が拡大しているため、競合というより、各社が目の前の顧客をカバーしながら共存していくイメージか」
――各社間で技術面の有利、不利などはないのか。
「画像の分解能では海外勢に先行を許しているが、これは割り当てを受ける電波の周波数帯で決まる部分も大きい。現状は分解能を高めるよりも観測頻度を上げる方にニーズが強く、まずは機数を増やすことを最優先としている。先行き需要の高まりがあれば、新たな周波数帯の申請などによって十分対応できると思う」
――今年は6号機と5号機に不具合が発生し、戦列を離れることとなった。宇宙の夢は大きいが、一方で、やはり過酷な環境でのリスクも大きいのでは。
「6号機はスラスタの安定的な出力ができず、通常稼働を続けながら年末に大気圏に突入予定で、5号機は通信関係の故障でサービス運用が不能となった。宇宙空間で同様の事態が生じる可能性は、完全には排除できないが、各事象において判明したことにしっかり対応することによって低減できるものと考えている」
――SAR衛星の製造から運用まで全て1社で対応しているのか。
「もちろん当社だけではない。各パートナー企業に製造してもらった部品を当社で組み立て、内外のロケット会社が打ち上げることになる。九州大学の先生方が05年に立ち上げた当社がSAR衛星に参入したのは草創期の15年ごろ。実証機作りから始めて短期間で今日の状況となれたのは、福岡県などの各地元自治体の支援に加えて、北部九州を中心としたパートナー企業の方々との連携あればこそだ。今後も各社の宇宙事業を発展いただくために中長期的に事業を伸ばしていきたい」
――宇宙関連企業の株式上場も増えつつある。
「宇宙産業は国が育てていかねばならない重要分野だ。昨年はispaceさんや当社が、今年はアストロスケールさんが上場したことで、この産業からも株式市場参入となった。投資家の方にはよく理解して投資していただけるよう情報開示に務めていく」