Hmcomm(265A)が10月28日、東証グロースに新規上場した。産総研(国立研究開発法人産業技術総合研究所)の技術移転ベンチャーで、音声認識処理、異音検知サービスなどを展開。初値は公開価格を32.7%上回る1,128円だった。上場当日の記者会見で三本幸司代表取締役CEO=写真=が語った内容のポイントは次の通り。
これまでの歩み……当社を一言で表現すると、人の音声と“場”の自然音を認識し、異音検知をマネタイズする『音×AI』のスペシャリスト。大きな転機となったのは2014年、産総研の技術移転ベンチャーの認定を受けたところから、音に着目した専門的な研究をスタートした。産総研ベースの技術を利用した音声認識プロダクトに始まり、音の特徴から異常を検知するというわれわれ独自の異音検知プロダクト、音声認識・異音検知、それらの分析をするAIソリューションという3本柱でこれまで進めてきた。
共創案件の積上げ→プロダクトラインアップ拡大……AIソリューションは事業会社と共に創る課題解決プロジェクトを遂行している。AIプロダクトはAIソリューションでの成果をベースに、ソリューションを課題解決手段としてプロダクト化。それをAIプロダクトとして昇華し、ライセンスビジネスでリカーリング収益モデルを得るというサイクルを回している。そのため、AIプロダクトのアカウント数、AIソリューションのプロジェクト数は特に重要なKPI(重要業績評価指標)となる。売り上げ比率はAIソリューションが約30%、AIプロダクトが70%。売上高は右肩上がりの成長を続け、経常利益も21年末に黒字転換して以降、一定の利益を出しながらプロダクトを創出してきている。
音の可視化ニーズは様々……例えば人間の心臓や肺の音、動物の鳴き声、工場などの産業音といったありとあらゆる音を可視化・分析して、人間の聴覚の代わりをするといったことを実現するのが音×AIのスペシャリストたる所以(ゆえん)であり、当社のユニーク性だ。AIソリューション領域においては、安川電機の工場における出荷判定(音で不良を判別する)、ベネッセの通販のコールセンターの自動受付、JR東日本の車両や線路の異常を音から検知するなどの実績がある。23年12月現在で共創先は29社、プロジェクト件数で49件。特に産業音など“モノの音”については大きな市場が予想され、まずはそこをターゲットにしていきたい。例えば高速道路など社会インフラの点検・保安保全や、音による異音検知・危険予知のニーズなど。また、ヘルスケアやメディカル、金融(声紋認証など)などでもわれわれの技術的なニーズが大きいとみている。
AIプロダクト収益最大化へ……成長戦略は、①クロスセル、販売代理店戦略、②―①共創プロジェクトの積み上げ加速・拡大に向けてのアライアンス戦略、②―②共創プロジェクトからプロダクト化へのコンバージョン率の上昇、③生成AIの活用――。①については、現在は2割程度にとどまる販売代理店経由の売上高を伸ばしていくため、CTC、MSYS、TMJなどとアライアンス契約を締結している。これらの会社をベースにもっとわれわれのプロダクトを量産していく。③は従来型のアプローチでは認識・認知と解析・予測が最終的なアウトプットだったが、生成AIを活用して最適解生成にアプローチすることで抜本的な省力化・省人化の可能性が広がってくる。また、“音”には国境がないのでニッチな分野でグローバルに出やすい。現時点で計画はないが、まずは国内でしっかり認知度を上げながら、良いパートナーと巡り合ってチャンスがあれば海外展開もぜひ前向きに考えていきたい。(SS)