エコノミスト櫻井英明が注目する企業のトップにインタビュー。今回はChordia Therapeutics(190A・G)の三宅洋代表取締役。日本橋ライフサイエンスビルの東京支社でお話を伺った。
同社は2017年創業で臨床開発品を擁するがん領域専門の研究開発型バイオベンチャー。主要なパイプラインであるCLK阻害薬CTX-712は11月に国際一般名称がrogocekibと決定した。米国での第1/2相試験を進行中。CTX-712は、がんの脆弱(ぜいじゃく)性がターゲット。有望な治療薬としての可能性が期待されている。またリードパイプラインのCTX-712、小野薬品工業に導出されたMALT1阻害薬CTX-177(ONO-7018)に加え、特定のがん変異に対するCDK12阻害薬CTX-439、GCN2阻害薬など、複数のパイプラインの研究開発に取り組んでいる。
――覚えにくいけど素敵な社名ですね
Chordiaは和音を意味する英語のchordに由来しています。和音はいくつもの音が重なり合い、美しい音色として耳に響きます。当社メンバー一人一人の新薬開発へ向けた情熱や弛まぬ努力と、社外の皆さまのご支援・ご厚意などが重なり合うことで、和音が美しい音色を奏でるように、効率的にがん領域の画期的新薬を生み出していこうという思いを社名に込めました。
――目指すところは?
がん治療の明日を担う新薬の開発に日々取り組んでいます。
バイオベンチャーならではの早い決断力・判断力を活かしたスピーディーな研究開発が第一です。
既に第一段階の治験がスタートしている治療薬CLK阻害薬CTX-712は、スプライシング(ある直鎖状ポリマーから一部分を取り除き、残りの部分を結合すること)を変化させることによってがん細胞を死滅させるこれまでにないまったく新しい作用機序を有しています。
「日本発、世界初のファーストクラスの抗がん薬を創る、日本発の研究開発型の製薬会社になる」。目指すところはココです。言葉だと簡単なことですが、壁をよじ登り、崖を越えることにチャレンジしていきます。
――パイプラインの特徴は?
私たちの抗がん薬パイプラインは、がんの新たな特徴として見いだされたRNA制御異常に注目して構築しています。最新の研究により、がんにおいてRNAの制御が変容していることが新たに見いだされ、このRNA制御異常が、がんの発生や進行に大きく関与することが示されています。
私たちは、RNA制御異常を標的とした低分子医薬品を生み出すことにより、がん患者さんの人生を変え得る新たな治療法の開発を目指しています。この治療法の実現のためには、RNA制御異常を伴うがんの深い理解、新しい治療標的の同定、さらには治療効果が顕著に高いと期待される患者さんに新薬を届ける個別化医療戦略の確立が極めて重要です。これらを可能とするべく、次世代のシーケンシング技術、および最先端の遺伝子編集技術を有する大学等研究機関との共同研究に積極的に取り組んでいます。研究を通じて、Chordiaのパイプラインが、がん患者さんに有益な治療効果をもたらす可能性を追求していきます。
――RNA制御ストレスとは?
最近の研究により、複数の新規ながんの特徴がさらに明らかにされており、いずれも多くの種類のがんに共通する特徴であることが分かっています。これらの特徴にはDNA損傷ストレス、酸化ストレス、有糸分裂ストレス、タンパク質毒性ストレス、代謝ストレス、および免疫ストレスといった、がんのストレス表現型と認知されているものがあります。
抗がん薬の標的となる分子を見つけ出すにはがん細胞の特徴を見いだし正常細胞との違いを明らかにすることが重要です。がん細胞には13の特徴があることが分かっています。免疫ストレスやDNA損傷ストレスなど10の特徴を標的とした抗がん剤は既に創出されています。これら既知のがんにおけるストレス表現型に加えて、新たに見いだされたのがRNA制御ストレスです。しかしながら、このRNA制御ストレスを標的とするがん治療は、いまだ十分に確立されていません。
DNA損傷ストレスおよびタンパク質毒性ストレスを標的とした抗がん薬は、既に上市済みですが、RNA制御ストレスを標的とした治療薬は、いまだ上市品が存在しないホワイトスペースでブルーオーシャンです。
当社のパイプラインは、RNA制御ストレスを標的とするコンセプト、すなわち異常RNAをさらに生成、蓄積させることで、がん細胞を死に至らしめるコンセプトに基づく低分子薬です。これは世界の研究者も瞠目(どうもく)する分野となってきました。
――Tomorrow is Another Dayですね
明日に希望を感じる社会の実現は、患者さんにとってもっとも重要なことです。医薬品開発を通じて明るい社会の実現役に立ちたいですし、斬新かつ新たなチャレンジで、がん治療の明日を担っていきたいと考えています。