ネオ抗原がん免疫細胞療法で日本初の企業治験
売り上げゼロで東京プロマーケットに上場申請
個別化医療への挑戦
NPTは2018年11月、東京大学医科学研究所(東大医科研)にて当時特任教授であった谷憲三朗先生を中心に設立、谷先生はこれまでも九州大学生体防御医学所長として活躍され、1998年から日本で初めてのがんに対する遺伝子治療(免疫遺伝子治療)を東大医科研附属病院にて総括責任医師として実施、その後も日本の遺伝子治療の先駆け的な活動を続けてきた。
一方、谷研究所の研究員であった社長の原健一郎は学生時代から細胞の可能性と免疫の力に魅了され、三重大学大学院で生命医科学を専攻、ヒトパラインフルエンザウイルス2型の樹状細胞活性化メカニズムを解明した。卒業後は細胞ワクチン開発の会社や自由診療のクリニックで臨床投与用の樹状細胞ワクチン等の免疫細胞の製造・品質管理に従事、800名以上の免疫細胞の製造等に関わって来た叩き上げの細胞製造技術者である。
同社の強みは、基礎研究の土台の上にしっかりと根差した細胞製造技術があるという点だ。アカデミアの研究が実業に中々結びつかない日本のトランスレーショナルリサーチ(TR)で問われる課題は人材と資金だが、基礎研究の谷先生と応用技術の原社長の融合はまさに強みと言える。
個々の患者に合わせた治療法
NPTは会社設立以来、がん疾患に特化した再生医療技術の開発に取り組んできた。がん治療における新たなアプローチとして、個々の患者に合わせた治療法が求められている時代、標準治療へ挑戦はその先駆者として注目される。
がん免疫細胞療法は今日まで自由診療で医師達の試行錯誤と真摯(しんし)な取り組みの中で展開されてきた。しかし、医学的根拠(EBM:Evidence based medicine)を持って治療薬とされている標準治療と自由診療にはいつも見えない壁が存在している。わが国の標準治療ガイドラインに固形がんに対する免疫細胞療法は無く、国民皆保険の元で標準治療と自由診療の混合治療禁止が補完代替医療としての扱いさえも阻み、統合医療さえも許されない状況にある。これらの制度はがん患者と現場の医師を苦しめる結果となっている。
2014年再生医療等製品の新承認制度
2014年の薬機法改正による再生医療等製品の新たな条件および期限付承認制度が道を切り開くきっかけとなった。あれから10年経った24年12月現在、条件および期限付承認を受けている品目は(1)J-TECの「ジャック」(ヒト(自己)軟骨由来組織)、(2)ニプロの「ステミラック注」(ヒト〔自己〕骨髄由来間葉系幹細胞)、(3)サンバイオの「アクーゴ脳内移植用注」(バンデフィテムセル)、(4)第一三共の「デリタクト注」(テセルパツレブ)の4品目だけである。その中で今回のNPTの治験実施は医療界、医薬業界のパラダイムを変える程の挑戦である。ベンチャー企業だからこそできる取り組みであり、資本市場が後押しすべきイノベーションと言える。
①日本初の企業治験
PAPCワクチン(ネオ抗原提示細胞ワクチン)は、ネオ抗原と呼ばれるがん細胞の目印を抗原提示細胞(樹状細胞)に載せて投与し、体内のキラーT細胞を活性化させ、ネオ抗原を発現する食道がん細胞を特異的に攻撃する再生医療等製品だ。がんは遺伝子変異で起こるので、患者一人一人その変異が違う。簡単に言うと指名手配書を免疫細胞に持たせて攻撃対象を明らかにして攻撃する免疫療法である。
ネオ抗原を用いたがん免疫細胞療法の企業治験はこれまでに日本では無い。NPTは細胞製造施設と商用生産に関しての開発も行い、最終的には自社で製造、販売を行う製薬会社を目指す。
これまでも大学での臨床試験は行われてきたが、結局製薬会社が最後引き受けるかどうかにかかっている。そこが大きな課題であり日本の大手製薬企業からは一人一人個別に細胞製剤を作る事に積極的な声は聞かれない。仮に大手製薬企業が後から参入しても、治験薬となれば先行品より有効性が高いことを示す必要が有るが、原料が自家細胞なのでそれができない。これは製法が公開される特許よりも強い競争優位性を持っている。
NPTが治験で医学的根拠(EBM)を示し、製造から販売までの仕組みを作り上げれば一人勝ちの市場になる可能性を含んでいる。
②売り上げゼロでTPM上場申請
標準治療になるためには治験を経なければならない。この治験申請のハードルは非常に高い。開発された再生医療等製品を人に投与してその安全性と有効性を見る試験である。NPTは起業以来一貫して治験薬GMP(Good Manufacturing Practice)に耐え得る製品開発を行ってきた。承認審査を行うPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)との面談は24年11月12日の治験計画書届出に至るまで、19年1月17日を皮切りに20回(事前面談15回、対面助言5回)も行ってきた。
東京証券取引所上場推進部との相談で、プロ投資家(特定投資家)が売買をする東京プロマーケットであれば上場可能という感触を得た。ただし売り上げの蓋然(がいぜん)性が説明できるためにも治験届出受理というのが条件と言われた。
標準治療になれば、医師は患者に治療法を提供する義務が発生する。患者は医師から手術、放射線、抗がん剤に加えネオ抗原を使った免疫細胞療法(PAPCワクチン)の提示を受ける。保険適用になれば患者の費用負担は3割、加えて高額療養費制度を使うと低所得者でも6万円以下で受けられる。
標準治療になれば売り上げは必然的に拡大していく可能性が高い。売り上げが出ればグロース市場への上場も計画している。市場での資金調達を活用しM&Aも含めさらにスケールアップする考えだ。
対象疾患は食道がんとなるが、適用拡大にはまた治験が必要なので数年かかる。そこで自由診療への展開も視野に入れていると思われる。これは事業計画には示されていないが想像に難くない企業戦略だ。
将来的には自由診療の医師が日々研究を重ねている治療法を組み合わせ技術としてNPTが治験の俎上(そじょう)に載せて標準治療への道を拓くことも考えられる。保険診療と自由診療の垣根のバイパス役は大手製薬企業にはできない。
これまでのバイオベンチャーに見られるパイプライン型企業価値ではなく、企業治験を経て標準治療になる事で企業価値創造を展開するバイオベンチャー企業だ。実現すれば新たな市場が拡大すると思われる。
③501人の株主を持つベンチャー企業の上場申請
これまで8億4,690万円の資金調達をした。ベンチャーキャピタルのTNPスレッズオブライトから3回に分けて4億3,000万円の出資を受けている。
501名の投資家のほとんどがエンジェル投資家である。特に2回行った株式投資型クラウドファンディングでは475人の株主が増えた。皆がん免疫治療の将来に期待を寄せている。事業会社では株式会社龍角散が1億円を出資した。龍角散のホームページでは「当社とは全く異なる技術力を有するNPTののどの健康課題への取り組みを通して、相乗効果を期待する戦略的な出資であり社会的意義も高い」と説明、200年以上の歴史を誇る龍角散は大局観に根差した判断をしている。
NPTの企業治験とTPM上場申請は製薬業界だけでなく、新興市場にも革新的な一石を投じている。この挑戦は計り知れない価値を内包している。さらなる飛躍が楽しみな会社だ。
株式会社NPT(311A)は、開発中の『ネオ抗原を用いた樹状細胞ワクチン(PAPCワクチン)』の食道がんに対する第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験(企業治験)の治験計画届書が医薬品医療機器総合機構(PMDA)に受理され、12月12日に臨床試験を開始することを発表、その後12月19日に株式会社東京証券取引所が運営するプロ向け株式市場TOKYO PRO Market(以下TPM)に対して、新規上場を申請した。三つの点において初の挑戦に注目した。①日本初の企業治験、②売り上げゼロでのTPM上場申請、③501人の株主を持つベンチャー企業の上場申請である。
NPTホームページ
https://neopt.jp/
NPT公式YouTube動画
https://www.youtube.com/channel/UCykxlPBio98LGey2nihYpvQ