インフラ整備の政府支援は追い風
フィリピンで通信事業を手掛けているアイ・ピー・エスはこのほど、株主を対象に首都・マニラへの視察旅行を開催した。同社は2023年12月のフィリピン国内海底ケーブルネットワーク完成により、通信インフラを活用したサービスを全土に展開中。高い経済成長を遂げつつも日本とは異なる事業環境を株主に体感してもらうのが視察の狙いで、日本から約200人の株主および投資家が参加した。
同社がフィリピンで通信事業に進出した当初は大手事業者の寡占状態だったため、中堅・中小CATV(ケーブルテレビ)事業者向けに国際通信回線の卸売りからスタートした。15年に子会社でフィリピン現地法人のインフィニバン(InfiniVAN, Inc.)を設立。20年代に入るとC2C(City-to-City)と呼ばれる国際海底ケーブルの使用権を取得したほか、総延長2500キロメートルのフィリピン国内海底ケーブルネットワーク・PDSCN(Philippine Domestic Submarine Cable Network)を既に完成させている。
フィリピンの25年の成長率見通しは6.1%。人口は日本の約9割に当たる約1億1,700万人超に増加し、平均年齢は約25歳と日本の48歳と比べると非常に若い。ニノイアキノ国際空港から市内まではバスで30分ほどと至近であり、車窓からは道路工事やビルの建築現場が至るところで見られた。半世紀前の日本のような経済成長の真っただ中にあって、アイ・ピー・エスは同国内やシンガポール・香港を結ぶ海底ケーブルを活用し、現地通信事業者へのネットワーク回線の提供や、法人向けインターネット接続サービスを提供している。
フィリピンが国を挙げて通信インフラの整備を推進していることは追い風だ。同社がマニラのホテルで開催した事業戦略説明会では、電気通信委員会(NTC)のロペス委員長があいさつに立ち、通信サービスが国家発展にとって欠かせない柱であるとの認識を示した。その上で、「インフィニバンは新興企業であるにもかかわらず、サービスはCATV事業者などを通じて国民の大多数に届いており、さらなる競争によって価格低下など消費者に利益をもたらしている」と高く評価。NTCはインフィニバンとの連携をさらに強めていくことで、フィリピンの隅々まで通信の接続が届くよう尽力していくと述べた。
ホテルがあるマカティ地区は銀行や大企業が立ち並ぶ商業地域であり、同社がこのエリアで光ファイバーケーブルを地下に敷設する現場も視察した。ケーブルの地中化などを通じて、法人顧客向けに高品質で安定的なインターネット接続サービスの提供も推進している。
通信事業は社会インフラそのものであり、国のマクロの成長性に密接にリンクする。宮下幸治代表取締役社長は、フィリピンはデジタル化に向け外資を導入するなど安定したネットワーク構築を推進しており、AIデータセンターを建設して成長するアジアのAIのマーケットも取り込んでいく構想を語った上で、「今後もできるだけ政府の方針に沿う形で新しい事業モデルを作っていく」との考えを示した。