ビジネスモデル変革の時期 優秀な人材獲得が最重要
1996年11月に当時の橋本龍太郎首相が“金融ビッグバン”を提唱してから四半世紀を迎えようとしているが、「貯蓄から投資へ」への掛け声も依然道は遠しというのが現状か。JIA傘下入りで9月に再スタートを切ったJIA証券(旧三京証券)で営業全般を担当する堀口渉常務と言えば、外資系証券や外資系運用会社で10余年勤務し、草創期のEB債(他社株転換債)組成を手掛けるなど多彩な経歴を持つ、いわば「ご意見番」的な存在だ。東京市場の現状や今後、そして、新生・JIA証券のあり方などについて堀口常務に話を聞いた。
――日本の証券業界の現状をどう見ているか。
「ある程度の勝負はついた。個人の売買の9割がオンライン経由となり、現在のネット証券上位5社がリードする構図は当面は変わらないだろう。一方で、大手証券はファイナンスや投資・運用など(投資銀行業務)に傾斜していくと見ており、それ以外の証券各社は得意分野を見つけなければ中途半端な存在となるかも知れない」
――どうすべきか。
「これまでは日銀の異次元緩和による相場上昇に支えられてきたが、本格的な調整局面となった際に生き残るにはビジネスモデルを抜本的に問い直す必要がある。従来も景気の波ごとに新旧交代が進んだ。ネットを使えても証券マンに背中を押してもらいたい投資家をどう取り込むか。あるいは、証券業務を清算して暗号資産に特化―といった選択肢があってもいい。横並びを脱して独自のビジネスモデルを確立できた証券会社が市場を担っていくことになる。その際に規模の大小は重要ではない。また経営トップの力量も問われる。生き残る会社はトップがしっかりしているものだ」
――現在のネット証券隆盛はかつての金融ビッグバンが起点となった。
「ビッグバンに伴う最大の変化は、投資家と市場をつなぐ仲介業の“既得権”を証券会社が失ったことだろう。消費市場の価格支配権がメーカーから小売(消費者)に移った20~30年間の動きを、証券界は今も追いかけているような状況だ。そうした厳しい現状を認識できなければ、次の展開は難しいだろう」
――来春には東証市場再編も実施される。順調に改革が進んでいるようだが、問題点はあるか。
「徐々に改善されてきたとはいえ、90年代後半にイメージした変革にはほど遠い。たとえば米国はもっともっと先を行っている。現状は外国人を含めた機関投資家が優遇されていたり、本質的な投資家保護を図るために必要な法整備も遅れている。発行企業(財界)・金融界・行政の鉄のトライアングル体制に課題がある」
――厳しい環境下でも生き残っていくために、まず何をすべきか。
「会社を伸ばすうえで重要なのは、まず社員の成長を促し、教育すること。これはかの著名経営学者、ピーター・ドラッガー氏も指摘している通りだ」
――JIA証券も歩合外務員などの人材採用にかねて力を注いでいる。
「可能であれば、いつでも独立できる(会社に頼らない)という気概を持ちつつ組織に貢献してくれる方を見つけてどんどん採用し、トップライン(売上高)を引き上げるとともに、彼らの満足度を高められる経営を目指している」
――JIA傘下となった影響はあるのか。
「人材採用にあたって親会社の影響は大きい。イメージ向上効果が徐々に浸透してくるのではないか。ただ、すぐにとはいかない。その意味ではマーケットがいったん大きく調整するなど変化があった方が、人材市場の流動化が進んで採用しやすくなる面もあると考えている」
JIA証券株式会社 常務取締役 堀口 渉
国内証券会社での営業を皮切りに、外資系証券会社、及び運用会社で約11年間、国内投資会社等で5年間、ブローカレッジ、リサーチ、デリバティブ商品の組成と販売、投資銀行業務、運用会社など様々な経験を積んだ。JIA(旧三京)証券には2010年夏に入社し2017年から営業全体を見ている。