グローセル(9995)は半導体商社でありながら、顧客の製品開発において初期段階から技術提案を行うデザイン―インに強みを持つ。近年は自社開発の半導体ひずみセンサ「STREAL(ストリアル)」ビジネスが軌道に乗り始め、ファブレスメーカー機能を併せ持つ商社といえる存在となった。業績はコロナ禍の影響を受けた前年から大きく回復し、直近では2022年3月期の営業利益予想を上方修正した。今年1月に新社長に就任した岡部昭彦氏(写真)に今後の事業戦略を聞いた。
――まずは社長交代を経て、今後の抱負をお聞きしたい。
「単にモノを仕入れて右から左という時代は終わった。これまで主にルネサス製半導体を取り扱うほか、H&CSB(日立製品および新規ビジネス品)、独自ブランドのSTREALの3本柱で事業を展開してきたが、そろそろ第4、第5の柱として新たなビジネスを見つけていかなければならない。社員にも半導体に限らず何か新たなアイデアがあればどんどん提案してほしいと呼びかけている」
――新たなビジネスとして特に注目しているものは。
「1つは半導体の積層技術。現在、茨城県つくば市で日台連携による研究開発が行われているが、当社もこのプロジェクトに何らか関わることができればと思っている。また、自動車業界ではこれからEV(電気自動車)向けにSiCという次世代パワー半導体の需要が増えていくとみられる。これを日本で専売的に販売できるよう、現在、米国企業と契約を進めている」
――中期の成長イメージについて。
「中期的に売上高1,000億円を狙う。また、収益性の高いSTREALや、新しいビジネスの構成比率を伸ばすことで営業利益率、ROE(自己資本利益率)も高い水準を目指したい。主力のルネサスエレクトロニクス製品については、2025年以降にADAS(先進運転支援システム)やEV向けの大型案件が量産化される見込み。現在、自動車分野の売上高は年間300億円前後だが、これにより25年以降は年間500億~600億円を狙えるようになる」
――足元ではH&CSBが非常に好調と聞く。
「昨年の今ぐらいから比べると1.5倍以上に伸びている。特に当社は台湾ファブレス半導体メーカーであるシリコン・モーション社の国内車載ビジネスを一手に引き受けていることもあり、大手車載Tier1向けストレージや車載電源分野の案件が増大している。また、車載以外では国内プリンター大手から2年間分の大型受注も獲得した。今後さらに需要が拡大していくことを見越して、新たなサプライチェーンの構築に着手している」
――STREALはどうか。
「STREALは主に作業現場における事故防止や安全なメンテナンス作業を助ける用途で使われることから、社会問題の解決、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献にもつながる製品と考えている。次のステップとしては、バイオセンシング技術など医療分野にも進出していきたい。ゆくゆくはインテルのように、STREALが組み込まれていることが信頼性の保証となることを目指しており、そのために品質保証部も立ち上げた」
「今年は既に鉄道線路の保守・メンテナンス用途で実証実験が進んでいるほか、ロボットメーカー向けの量産も始まる。ロボットについては、協働ロボット向けに従来のSTREALよりも感度が10倍高い、次世代半導体ひずみセンサの開発を昨年に終え、年内量産の目途が立った。作業員が接触した際にすぐさま動作を停止するといった安全機能用途の需要を取り込んでいく」
――最後に株主還元策について。
「コロナ禍にあった前期、特損を計上した今期も12円(期末一括)の配当を維持した。引き続き安定配当による株主還元を基本方針としていく。一般の方にも当社の事業への理解を深めていただけるようIR(投資家向け広報)や広報活動に一層尽力するとともに、SDGsや社会貢献的側面についても積極的に発信してきたい」