インターネットを活用したアンケート調査が祖業のクロス・マーケティンググループ(3675・P)は、蓄積した消費者のリアルデータを事業基盤に、販促支援やアプリ運用・開発などデジタル領域にかじを切り、マーケティングDX(デジタルトランスフォーメーション)サービスを総合的に提供している。今期は売上高、利益とも過去最高を更新するV字回復を見込む。ビジネスモデルやグローバル展開、株主還元について創業者の五十嵐幹氏(写真)に話を聞いた。
――ビジネスモデルを教えてほしい。
「創業時はインターネットを活用したリサーチの仕事が多かったが、近年はホットな市場であるデジタルマーケティング市場に進出しており、アプリの制作などシステム開発が主力事業となっている。なかでも金融機関向けの取引系のアプリは得意とするところだ。銀行や証券会社では多様なトラフィックを、ミスなく、正確にセキュリティも担保されている状態で守っていく必要があり、お客様からはこの点を高く評価されている」
「お客様からのリクエストはますます具体的だ。例えば『20歳前後で投資に興味のある若者が、ストレスなく触って操作できる金融取引アプリを作ってほしい』という。当社はターゲット年齢層ごとに、どんな画面や挙動にストレスを感じるかのデータを長年研究してきたので、他社と比べ迅速に答えを出し、作りこめるという強みがある」
「データマーケティング事業とインサイト事業では消費者の選択、コメント、画像や音声などのデータを集め、分析してお客様にご提供、提案する。通信、化粧品、食品、自動車、家電、官公庁など不特定多数の消費者と接点を持つ大企業にサービスを展開する」
「当社が保有する800万人超の消費者とのつながり(パネルという)は、アンケートモニターとして情報を収集する作業にも生かせるほか、プロモーションにも活用する。さらに、消費者から集めた生の声を分析しての新商品の開発、あるいは商品購入者の満足度向上などに関するコンサルティングを行うなど、踏み込んだ提案にもつながる」
――今期は売上高が約3割増、営業利益が約7割増を計画、V字回復の背景は。
「コロナの影響からの回復プロセスにうまく乗れたということだ。一昨年のコロナ発生直後は当社のお客様の多くがマーケティング予算を抑制したが、1年ほど前から回復軌道にあり、世の中全体にデジタルシフトの追い風が強まった。コロナ前からM&Aやコスト構造改革を含む先行投資を間断なく実施したことが奏功した」
「M&Aでトップラインを押し上げると同時に、AIを活用した既存ビジネスの効率化、構造改革による収益性向上を推進。攻めと守りの改革が一気に花開いた格好だ」
「一方、第4四半期(4~6月期)は営業損失の計画だが、これは成長投資を積極的に行うため。今期は3カ年の中期経営計画の初年度ということもあり、来期以降の成長加速が狙いでありネガティブなものではない」
――中期経営計画の目標はトリプルスリーの達成。
「2024年6月期に時価総額300億円(5月30日時点で160億円)、売上高300億円(22年6月期予想は245億円)、営業利益30億円(同25億円)の目標を掲げている。初年度の今期は第3四半期までで2度の上方修正を行うなど非常に順調で、予断を許さぬ外部環境の中でも、おかげさまで計画に対しオントラックの進捗だ」
――米国ファーストのグローバル化を推進中だ。
「アジアに根を張ることによって、グローバル企業のアジア展開のためのお手伝いをしてきた。とりわけ、コロナ禍でも成長が加速している米国の世界的大企業との取引を優先的に拡大している。今後はEU(欧州連合)圏に拠点を整備するなどの拡充を考えている」
――株主還元に関する考えを聞かせてほしい。
「増配を継続していく方針を約束している。配当性向は15%前後を目安に、成長余力を残しつつ配当を積み増している。今期は1株当たり9円60銭と期初予想の8円20銭から2度の増配を行った。また、創業20周年を記念して6月末株主にクオカードを贈呈する」
――個人投資家にメッセージを。
「リーマン・ショックの嵐が吹き荒れる08年10月に東証マザーズ市場に上場し、売上高は当時の27億円から9倍増の245億円まで押し上げた。コロナ禍さえものともせず、過去最高益更新を目指している。逆境に対して強いことはもちろん、今は株価指標面でPER十数倍と投資しやすい水準にある点も踏まえ、ぜひとも応援していただきたい」