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特報2015年6月9日

☆特報 上場廃止プラネックスは法廷闘争に フェアネスオピニオン義務化を

東証は動くか!?

昨年8月に創業会長によるMBO(経営陣による企業買収)の実施を公表、約2カ月間のTOB(株式公開買い付け)実施期間を経て、昨年暮れに上場廃止になったプラネックスホールディングスが、戦う個人投資家・山口三尊氏から買取価格決定の申し立てを受け、法廷闘争となっている。

プラネックスはネットワーク関連機器のファブレスメーカーで、かつてはソフトバンク系のファンドや光通信も出資していた会社である。2001年7月の上場当時は昔懐かしいADSLのルーターが主力商品だった。

上場3年目にヘッジ目的の通貨オプションで多額の損失を出し、03年12月期に営業赤字に転落。04年12月期からは通貨オプションの評価益を営業損益ではなく営業外損益に計上するようになったが、ネットワーク関連機器の単価競争が始まり、5期営業赤字が続いた。

FXのMJの増資を引受け、子会社化したのは07年4月。MJの収益貢献が通期で効いた08年12月期は、一気に18億円もの営業黒字を計上したが、翌09年12月期は相場の変動が少なかったことから、FXの取扱高が減って営業益は12億円へと大幅に減少。

その翌年は相場変動があって盛り返すなど、良くも悪くも市場動向次第で業績が大きく変動するFXに翻弄された会社と言える。

畑違いに見える中古自動車販売に進出したのは10年12月期。翌11年12月期は不良在庫の評価損を原価計上した影響で、創業事業の情報通信が5億円強のセグメント赤字を出し、FXのセグメント利益もわずか3,200万円に留まったため、連結全体では再び営業赤字に。上場最後の本決算となった13年12月期は、情報通信が復活して1億円のセグメント黒字になる一方で、FXは6億円以上の赤字。

翌14年12月期の本決算は、スクイーズアウトによる上場廃止で開示されなかったが、第3四半期までの実績では、情報通信事業がスマートフォン関連の製品が好調だったことに加え、ネットワークカメラの独自製品が好調だった。大型案件が減ったため、売上高こそ前年同期の373億円から293億円へと2割以上減ったが、営業利益は8,197万円から1億7,989万円へと、2.2倍に増加。

その一方で苦戦が続くFX事業は2億5,772万円の赤字。それでも前年同期と比べれば、赤字は半減していたのだが、この会社の収益の足を引っ張っているのがFX事業であることは明白だった。

さてそこで、今回、山口氏は何を怒っているのかというと、昨年10月5日付けでFX事業を売却していたことに対してである。公開買付届出書でも、会社側が出した意見表明報告書にも、FX事業を売却する予定であることは書かれていない。公開買付届出書に書かれた19年12月期までの業績予想では、15年12月期と16年12月期が約1億円ずつの営業赤字になっている。

FX事業をそのまま継続する前提だと思えばこそ、この計画に疑問を持たなかったのだが、赤字原因のFX事業が売却されるのであれば、営業利益はもっと行くはず、ゆえに公開買付価格は不当に低く設定されている、というのが山口氏の主張だ。

公開買付期間は昨年8月12日から9月25日まで。10月5日と言えばその10日後。まだ会社は市場に上場していたが、この譲渡については開示していなかった。偶然、山口氏が譲渡の事実を知り、会社側に説明を求めた結果、出てきた収益計画に、山口氏は再び激怒した。

というのも、FXの赤字が3,600万円に縮小する代わりに、ここまで好調に推移してきた情報通信で多額の赤字が出る計画になっていたからだ。

TOB価格の算定にあたり、日本のTOB手続では第三者の評価書をとらせても、その評価書にフェアネスオピニオン(第三者意見)を義務付けていない。フェアネスオピニオンが義務化されれば評価書の作成業者は責任を問われる。

日本取引所グループに対して、山口氏はスクイーズアウト実施時の評価書に、フェアネスオピニオンの取得を義務付けるよう、株主提案をしている。

すぐに「山」が動くわけではないだろうが、一つ一つの事例の積み上げで山は動かせるかもしれない。

いずれにしても、今回のこの買取価格決定、今後の動向に注目だ。

プラネックスの業績
売上高
情報通信自動車流通FX不動産
2009/127,5333,103-4,429-
10/1210,0974,4861,0244,569-
11/129,5924,4672,3722,751-
12/1214,6429,1033,3132,225-
13/129,7944,5684,967109149
14/129,6543,7335,63467220
15/12予6,3851,2374,927-221
16/12予6,2371,1542,862-221
17/12予6,7151,2545,241-221
18/12予7,0891,4505,418-221
19/12予7,6121,7635,628-221

営業利益経常利益当期純利益
情報通信自動車流通FX不動産
2009/121,27751-1,194-1,395953
10/121,566237△11,362-1,613803
11/12△246△5273432-△309△704
12/1275150033△25-9663,205
13/12△35411278△6329314560
14/12△13929018△238115--
15/12予△111△144229△36115--
16/12予△109△154240△36115--
17/12予48△90334△36115--
18/12予20017378△36115--
19/12予418181432△36115--
※金額の単位は百万円

著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)

[本紙6月10日付12面]

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