利益はすべて子会社側に温存
東京商工リサーチの高額役員報酬モノは先週までで終了するつもりでいたのだが、あまりにもユニークな会社を見つけてしまったので、今週も取り上げたい。本日取り上げるのは栄養補給食品販売のシャクリー・グローバル・グループ(8205)。その昔、日本シャクリーと名乗っていた会社で、いわゆる会員組織型の販売形態をとっている会社だ。
同社の取締役、代表執行役会長、社長兼CEO(最高経営責任者)のロジャー・バーネット氏が、最終的に11位に入り、その報酬額は6億4,900万円だった。内訳は基本報酬6,800万円にボーナスが4億6,000万円、ストックオプションが1億1,900万円で退職金が100万円。
前年は3億4,600万円で内訳は基本報酬が5,500万円でボーナスが2億9,000万円。その前は基本報酬4,500万円+ボーナス8,700万円の合計1億3,300万円だ。
このシャクリー・グローバルという会社、IR(投資家向け広報)活動に対するやる気のなさ加減が半端じゃない。まずグーグルで社名検索をかけて出てくるサイトは、栄養補給食品を販売している、このグループの中核会社である日本シャクリーのもの。上場している持ち株会社のコーポレートサイトもヒットはするが、注意して見ないと見落としてしまう。
日本シャクリーのサイトは基本的に製品情報やその購入方法の紹介が中心で、コーポレートサイトへは「会社概要」から「シャクリー・グローバル・グループ」のボタンを探し出し、クリックすると飛べる。そして飛んでみると、社名、本社住所、電話番号と設立年月、それに代表のバーネット氏の名前だけが列挙された、おそろしくシンプルなページが現れ、「IRライブラリー」ボタンをクリックすると、現れるのは2015年3月期の事業報告書と中間期の中間報告書のみ。
■持ち株会社の純資産15億円
適時開示も短信も一切掲載していない。短信と業績予想関連のリリースは東証のホームページの「上場会社情報」に過去5年分、それ以外のリリースは1年分が掲載されているが、そのページに飛べるボタンもなし。当然有価証券報告書などが見られるEDINETに飛ぶボタンもなし。キーエンスも顔負けの引きこもりぶりだ。配当も11年3月期以降無配が続いている。この会社、1986年8月に店頭公開し、以来現在までJASDAQ市場に居続けている。下表は店頭公開以来現在に至るまでの業績を集計したものだが、ご覧の通り上場来一度も赤字になったこともない。2015年3月末時点の連結純資産は189億円もあり、現預金に至っては197億円もあるのに、だ。
なぜか。上場している持ち株会社が、中核会社の日本シャクリーはじめ、キャッシュを稼いでいる事業子会社から稼ぎを吸い上げないからだ。このため、持ち株会社の純資産はわずか15億円しかなく、現預金に至っては2億円もない。持ち株会社としての収益は5億円の配当収入のみ。利益はすべて子会社側に温存されているのである。
当然優待もない。発行済み株式総数は2,592万株なので、10年3月期まで出していた30円でも配当総額は4億円強。自己株が47.4%もあるので、大体1,360万株分の配当原資があれば済む。それすら吸い上げず、株主への還元もしないのである。
しかも売買単位はいまだに1,000株単位。1単位買うのに150万円以上掛かる。ここまで来ると、もはやあっぱれである。
■かつては山之内製薬が買収
この会社、店頭公開当時は米国シャクリー社が8割弱を保有していたが、北米企業のM&A(企業合併・買収)を模索していた山之内製薬が1989年に既に公開していた日本法人を買収。ほぼ同時期に米国本社が敵対的買収に遭い、ホワイトナイトとして米国本社も山之内製薬が買収した。当初、山之内は自社の医薬品を米国で販売するための販路開拓の足掛かりにしようとしたようだが、シナジーが出ないままシャクリーの業績自体も右肩下がりに。赤字にこそなってはいなかったが、藤沢薬品工業との統合を控えていた2004年にRHJとアクティベイテッドという2つの米国系ファンドに約330億円で売却した。アクティベイテッドは今回高額役員報酬ランキングに登場したバーネット氏のファンドで、株主名簿上はシルバーファミリーという名称のファンド名になっている。
05年3月期の年商が倍増しているのは、ファンドが買収後に上場している会社を持ち株会社化し、そこへ日本法人も米国法人もぶら下げて連結を開始したからだ。
国内が伸び悩む中、海外、特にアジアに活路を求めたため、海外比率は年々上昇、15年3月期の海外比率は88%に達している。
さて、ろくに配当しなければ8割弱を握る筆頭株主となったRHJにも恩典はないはずなのだが、買収から9年後の13年5月、RHJは投資の回収にかかり、保有株の大半にあたる1,012万8,000株を、50億6,400万円(1株当たり500円)で会社側に自己株取得させている。この単価は当時の市場価格よりも38%ほど安い金額で、臨時株主総会決議を経て実行されている。
実際のところは分からないが、単純計算で言えばRHJは165億円で購入したものを50億円で売った、つまり100億円以上の損を出して手じまいしたことになる。
買い取った会社側も、この自己株取得で持ち株会社のキャッシュが減り、子会社からの吸い上げも成されないまま無配が続いているわけだが、アクティベイテッドがまだ発行済みの約4割(約1,000万株)を保有している。子会社に溜め込まれている現預金をどうするかは、バーネット氏の思いのままということなのだろう。
中国の伸びで14年3月期、15年3月期は業績が急伸したものの、今期予想は大幅な減益予想。そもそも浮動株が少ないところへ、いじられ対象にもなっているのか、株価は乱高下気味。こういう銘柄こそ面白いと思う投資家ならばいざ知らず、素人が投資対象にできる銘柄ではないと言っていいだろう。
売上高(百万円) | 営業利益(百万円) | 当期純利益(百万円) | 配当(円) | 株価(円) | |
---|---|---|---|---|---|
1985/9 | 14,469 | 4,394 | 2,306 | 2,000 | - |
86/9 | 12,598 | 3,353 | 1,520 | 40 | 4,600 |
87/9 | 12,938 | 3,914 | 1,886 | 40 | 2,650 |
88/9 | 14,348 | 4,036 | 2,021 | 40 | 1,800 |
89/9 | 13,811 | 3,539 | 2,024 | 50 | 2,510 |
90/3 | 7,369 | 1,903 | 1,122 | 25 | 4,000 |
91/3 | 14,706 | 3,381 | 2,050 | 50 | 2,900 |
92/3 | 14,946 | 3,289 | 1,856 | 50 | 2,400 |
93/3 | 15,580 | 3,494 | 1,970 | 50 | 2,250 |
94/3 | 15,446 | 3,263 | 1,589 | 50 | 2,280 |
95/3 | 15,031 | 3,274 | 1,940 | 50 | 2,290 |
96/3 | 15,132 | 2,330 | 1,484 | 50 | 1,790 |
97/3 | 14,326 | 1,986 | 1,015 | 50 | 1,690 |
98/3 | 12,495 | 1,586 | 936 | 40 | 1,050 |
99/3 | 12,336 | 1,674 | 826 | 30 | 880 |
2000/3 | 11,970 | 1,610 | 829 | 30 | 780 |
01/3 | 11,875 | 1,530 | 781 | 30 | 820 |
02/3 | 9,374 | 1,563 | 767 | 30 | 850 |
03/3 | 9,484 | 1,752 | 901 | 30 | 820 |
04/3 | 10,020 | 1,932 | 1,057 | 356.8 | 1,000 |
05/3 | 23,423 | 2,943 | 977 | 30 | 1,265 |
06/3 | 26,428 | 3,732 | 1,228 | 30 | 1,132 |
07/3 | 26,539 | 2,465 | 376 | 30 | 844 |
08/3 | 27,322 | 2,945 | 1,441 | 30 | 709 |
09/3 | 24,685 | 3,086 | 1,341 | 30 | 635 |
10/3 | 23,436 | 3,805 | 2,847 | 30 | 635 |
11/3 | 22,203 | 3,505 | 1,574 | 0 | 415 |
12/3 | 23,688 | 3,620 | 1,535 | 0 | 512 |
13/3 | 30,981 | 5,168 | 2,780 | 0 | 815 |
14/3 | 50,868 | 11,152 | 7,324 | 0 | 4,020 |
15/3 | 51,450 | 7,596 | 4,032 | 0 | 2,050 |
16/3予 | 45,858 | 3,783 | 1,567 | 0 | - |
※2004年3月期まで単体、2005年3月期以降連結 |
著者紹介 伊藤 歩(いとう あゆみ)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
ノンバンク、外資系金融機関など複数の企業で融資、不良債権回収、金融商品の販売を手掛けた経験を持つ金融ジャーナリスト。主な著書に「TOB阻止 完全対応マニュアル」(財界展望新社刊)
[本紙7月8日付12面]