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IPO2024年6月6日

IPO社長会見 アストロスケールHD 軌道上サービスでサステナブルな宇宙開発へ

アストロスケールHD(186A)が6月5日、東証グロースに新規上場した。同社はスペースデブリ(宇宙ゴミ)除去サービスの開発に取り組む世界初の民間企業。初値は公開価格を50.7%上回る1,281円だった。上場当日の記者会見で岡田光信代表取締役社長兼CEO=写真=が語った内容のポイントは次の通り。

宇宙の環境問題……11年前に、宇宙はこのまま放置すると急激に増えている衛星とスペースデブリによって持続利用不可能になるという問題を知った。宇宙にもいくつか分野があるのだが、その中でも私たちが取り組んでいるのは軌道上サービスと呼ばれる新しい分野。例えばスペースデブリの除去や、衛星の軌道修正、燃料を補給するような寿命延長のサービス、あるいはつかめはしないが近くまで行って点検や観測をするサービスといったもの。これらを実現するのが当社のコア技術である「RPO技術」という接近・捕獲する技術だ。

軌道上実証済みのコア技術……いろいろなロードショーを通じて多くの投資家と会話をし、大変強い需要を頂いた。(ネット証券を除いて)われわれのオファリングサイズの30倍ぐらいの需要を頂いたが、これがなぜだったのか、理由は3つあると思う。1つは「技術」。私たちは世界に先駆けてRPO技術を実証してきた。特にデブリのような非協力的な物体、つまり位置情報も教えてくれないし、勝手に地球の周りをぐるぐる回っている物体に安全に接近して捕獲するという技術を世界に先駆けて実証してきたことが大きかったと思う。

2衛星が技術力を証明……当社はこれまでRPO技術実証の衛星を2機打ち上げている。1つ目のELSA―d(エルサ・ディー)という世界初のデブリ除去実証衛星は今年1月にミッションを成功裏に終え、次のADRAS―J(アドラスジェイ)は2月に打ち上げたのち、4月に世界で初めて接近して撮ったデブリの写真を公開した。これは非常に大きなインパクトがあり、われわれの技術を証明したことで本当の軌道上サービスの扉を開いたと考えている。

政府需要による強固なパイプライン……2つ目は「事業」。ELSA―dが2021~22年にかけてRPO実証して以降、複数の国・地域で事業機会が加速し、私たちは各国で入札・受注をしてきている。第3四半期末(1月末)現在で受注残は184億円。さらに4月に新たなデブリ除去プロジェクトに採択され(契約はこれからだが)、これを単純に足すと受注残は300億円規模となる。2年前の受注残が十数億円だったことを考えると、世界的に軌道上サービスに対する需要が急激に出てきて、それを徐々に獲得してきていることが分かると思う。

民間需要が成長ドライバーへ……現在は各国の政府機関の需要がメインだが、別途民間からの需要というのも急速に受けている。特にEnd of Life(EOL)という今後デブリを増やさないサービスと、Life Extension(LEX)という寿命延長サービス。EOLはお客さまにドッキングプレートというものを販売しており、そのプレートを付けてから衛星を打ち上げてもらうことによって、彼らの衛星が故障した場合に私たちが見つけやすくて近づきやすくて除去しやすい、しかも磁石で捕まえることができるというサービスだ。現在、宇宙空間で568機の衛星がわれわれのドッキングプレートを載せて飛んでいるところであり、他にも何社かの搭載が決まっている。また、LEXについては、ある海外の会社とタームシート(条件規定書)を結び終わったところであり、今後最終的なアプローチに入っていきたい。このように民間企業の関心も高まってきている状態で、恐らく今後は政府からの需要が伸びつつ、民間の需要というのがさらに私たちの成長をドライブしていくのではないかと考えている。技術が証明され、この2年ぐらいで環境が大きく変わってきた。

各国で実績を積み上げ……最後は「グローバル展開」。現在5カ国に拠点を持っているが、各国にきちんと工場、クリーンルーム、エンジニアをそろえて技術開発や衛星の開発ができるようになっている、本当にグローバルな展開をしている点が私たちの特徴だ。通常のスタートアップはどこかの国で成功してから次の国へ行くと思うが、宇宙を持続利用させるという課題には国境がないので、私たちは最初から同時に世界展開をしている。技術開発や施設整備、人材など非常にお金がかかるが、おそらくこの投資は逆に投資家にとっては魅力的であった。なぜならば実際に各国で受注が積み上がり始めているからだ。

ルール整備で市場は拡大中……宇宙かつディープテックで国境のない、ある意味グローバル・コモンズ(地球規模で人類が共有している資産)な公共の問題を解決していくにはやはり時間がかかるが、今日の上場という通過点は大きなステップだと考えている。数多くのロードショーを行う中で、特に海外機関投資家の需要が大きかったというのは一つのシグナルだと感じた。国の立場からすると、技術とルール作りは両輪のところがあり、引き続き私たちが技術をどんどん前に進めていくことによって、世界のルール作りというものも前進していくと考えている。

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