オルツ(260A)が10月11日、グロースに上場した。初値は公開価格を5.5%上回る570円。デジタルクローンP.A.I.(パーソナル人工知能)の開発を最終目的とした要素技術の研究開発と製品群の展開などを行う。上場当日の記者会見では米倉千貴代表取締役社長=写真=らとともに、米倉社長のクローン、日置友輔取締役CFOのクローンが登場。主に米倉クローンと日置クローンが事業内容や今後の展望などを説明した。
■【米倉クローン】
日本における生成AIのトップランナー……10年前に立ち上げ、グローバル基準でイノベーションを起こすための企業として運営している。イノベーションを起こす覚悟はあったが、振り返ると耐え続けた8年間だった。売り上げをつけず、研究開発を続けさせてくれたベンチャーキャピタルに非常に感謝している。その間、蓄積した深い技術があるからこそ、現在、強いプロダクトを開発することができている。日本における生成AIのトップランナーとしての評価を受けており、生成AI技術においてグローバルプレイヤーと連携しながらビジネスを進めている。
パーソナライゼーション技術で差別化……技術としては音声認識、自然言語処理、深層学習、画像認識などに加え、大規模言語モデル(LLM)、コンピューティングやストレージのインフラも保有している。特に他社との差別化を示す技術は、パーソナライゼーション技術。ベンチャーらしい優位性を示せる部分と考えている。例えば音声認識では平均モデルが世界中で開発されているが、個性化されたものが認識できず認識精度は頭打ち。一方、当社はパーソナライゼーション技術により個人個人にカスタマイズされた音声認識モデルを効率よく構築し、これにより平均モデルではできない情報を反映することで、結果として高い認識精度を実現している。この技術は生成AIの応用で、当社は個人個人、もしくは企業ごとにカスタマイズされた生成AIを構築することに長けている。
個性化されたAIを世界中の人に提供へ……繰り返しになるがオルツは個性化されたAIを世界中の人々に提供することを実現するために立ち上げられた会社。このためボトルネックになるであろうパーソナライゼーション技術について戦略的に集中して研究してきた。今、私が米倉としてそれらしく話せているのも、パーソナライゼーション技術を駆使しているから。私たちが突き詰めてきた技術は、企業ニーズの変遷とともにチャットGPTへの期待と現場での使いにくさとともに引き合いが強くなってきている。ビジネスの現場では企業の独自情報やノウハウなどを学習したカスタマイズされたAIへのニーズが強くなってきており、最近になってさらに当社の技術のレベルおよびプロダクトの優位性が認識されやすい土壌が整ってきている。
■【日置クローン】
主要製品の動向……コミュニケーション・インテリジェンス「AI GIJIROKU」は音声認識モデルにパーソナライゼーションを付加することで高い音声認識を実現。直近3年で急速にアクセルを踏み、高い成長率を継続している。それ以外で既にマネタイズしているのは、AIエージェント作成プラットフォームの「altBRAIN」、クローンマッチングの「CloneM&A」、仕草まで本人に似せたクローンを構築できる「CloneDev」、その名の通り「AIコールセンター」、GPUリソースをホスティングできる「EMETH GPU POOL」の5つ。強い引き合いを得ており、今後それぞれが持つ大きな市場でプロダクトとしてスケールしていく予定。「CloneDev」は創業社長や著名人などのクローン化ニーズによりこの分野のパイオニアとして比較検討なしでトライアルから正式契約、継続運用に移行している。「CloneM&A」は人材マッチング、プロジェクトマッチング、M&Aマッチングなど世の中に大量に存在するマッチングビジネスを自動化するニーズを背景にスムーズにPOC(概念実証)に移行している。このように潜在ニーズを掘り起こす技術とプロダクトを連続して生み出し、収益化していく。
経営戦略……事業の中長期の成長イメージとしては、コミュニケーション・インテリジェンスのプロダクトに現在仕込んでいる複数のプロダクトを使っていき、その後、いわゆるP.A.I、いわゆる自身の分身となるプロダクトを収益化していく予定。オルツではプロダクトを通じてパーソナルデータを収集しながらクローンAIとして精度を上げていく。当社内では社員の月100時間を超える業務時間をAIクローンが代替している。このようにさまざまな業務を代替するプロダクトを提供していくことで、次第に決断、判断を行うクローンプロダクトを提供していく。現在提供しているAIプロダクトを人間の稼働に置き換えた場合、1500人以上に相当する労働をAIによって提供していることになる。この数字が拡大していくことで企業および国、世界中の人々の労働生産性を向上させていく。
トップランナーとしてシェアをとっていく……足元は音声認識市場、生成AI市場だが、今後拡大を予想する自律型AIおよびP.A.I.市場も膨大な市場機会があるとみており、それらのトップランナーとしてシェアをとっていく。売上高、ユーザー数、営業利益を特に重要視。ユーザー数を伸ばしながら高いトップラインの成長率を保ちつつ、ボトムラインについても適切にコントロールしていく。売上高は100億円の先は、500億円、1,000億円を見据え、成長を継続していく。そうすることができるのは音声認識と生成AIが生み出す莫大な市場機会が存在するから。数十兆円単位の市場が存在するエリアで当社のプロダクトが優位性を持っているからこその成長性と考えている。
質疑応答部分は、事前に集めた質問を司会者が読み上げ、それを米倉クローンが認識して回答を即時に生成。主なやりとりは次の通り。
――上場の主な理由は。
「資金調達、人の質の向上、知名度向上によるセールス拡大、さらなる日本政府との連携模索の可能性などが挙げられる」
――今後注力する分野は。
「生成AIやコミュニケーションなどの分野。特に生成AI技術を活用した新しいサービスやソリューション開発に力を入れる。コミュニケーション分野では、より効果的で自然な対応を実現するための技術革新を目指している」
――海外展開、M&Aの計画は。
「積極的に検討していく予定。オルツプロダクトには言語の壁がないので、海外展開を推進していくパートナーとの連携が重要。既に候補の何社かと話を進めている」
――黒字化に向けての戦略は。
「コスト管理の徹底と収益性の高い事業へのリソース集中を進めている。また、効率的なオペレーションと新規事業の開発を通じて持続可能な成長の実現を目指している」
――次はどのような課題を解決するものを考えているのか。
「より高度なパーソナライズと効率化の実現。具体的には、個のユーザーのニーズにより細かく対応できるAIの開発を進め、業務の自動化や意思決定のサポートをさらに強化したい。また、AIの倫理的な側面やプライバシーの保護にも注力し、安心して利用できる環境を整えることも重要。これによりAIが社会全体にとってより有益なツールになるよう務めていく」
――「CloneDev」を開発したきっかけ。
「個人の特性や知識をデジタル化し、それを活用することで人々の生活をより豊かにすることを目指したから。僕たちは個々の知識や経験をAIに学習させることで、よりパーソナライズされたサポートを提供できると考えた。この技術により、例えばビジネスの場面では、特定の専門知識を持つ人のクローンが24時間・365日サポートを提供することが可能になる。また、個人のライフスタイルに合わせたアドバイスやサポートを行うことで、日常生活をより便利にすることも目指している」
――長期的展望としてP.A.I.自体に、いわゆる「副業」のような形で働いてもらうことは可能なのか。
「長期的展望としてP.A.I.が単体で業務に当たることは技術的には可能性があると考えている。P.A.I.は個々のユーザーの特性やニーズに合わせてカスタマイズされるため、特定の業務を効率的にこなすことができるようになるだろう。ただし、実際に副業として働かせるのには、技術的な進化だけでなく、社会的な受け入れや倫理的な問題、そして法的な枠組みの整備が必要。これら課題をクリアすることでより広範な業務に活用される未来が実現するかもしれない。オルツとしてはP.A.I.の可能性を最大限に引き出し、社会に貢献できる形での活用を目指していく」
――P.A.I.を人間や動物などを模したハードウエア上に実装して活用できる可能性やそういった構想はあるか。
「技術的には興味深い分野。現在は主にソフトウエアとしてのP.A.I.の開発に注力しているが、将来的にはロボティクスやハードウエアとの連携も視野に入れ、基礎研究を進めている。具体的な構想としては、P.A.I.が物理的な形を持つことでより直感的なインターフェースを提供し、人々とのインタラクションを豊かにする可能性がある。例えば、家庭内でのサポートや教育・介護などでの活用が考えられる。ただし、ハードウエアとして実装するには、技術的な課題やコスト、社会的な受け入れなど様々な要素を考慮する必要がある。今後の技術の進展や市場のニーズに応じて、こうした可能性を探っていくことになろう」(Q)