カウリス(153A)が3月28日、東証グロースに新規上場した。同社は金融機関を中心にクラウド型不正アクセス検知サービス「Fraud Alert(フロードアラート)」を提供。初値は公開価格を87.9%上回る2875円だった。上場当日の記者会見で島津敦好代表取締役社長=写真=が語った内容のポイントは次の通り。
マネロン対策が急務……2022年のクレジットカードの不正利用被害額は437億円、23年はインターネットバンキングの不正利用の被害額が90億円近くに上る。日本はマネーロンダリング(資金洗浄)対策に取り組む国際組織「FATF」の審査で不合格となり、同組織や金融庁から取引モニタリングの強化などを図ることが求められている。
不審な動きをチェック……銀行を中心とした資金移動業のエンタープライズにフォーカスしている。ユーザーがブラウザにログインをする、もしくはスマートフォンアプリを立ち上げた際に、誰がどんなところから銀行口座をつくっているのか、ログインや出金を常時モニタリングしており、現在、月間のモニタリング件数は5億件を超える。例えば1つの端末なのに60個の銀行口座にログインが成功しているとなると、これは悪用されている端末である可能性が極めて高いということになるので、高いアクセスがあった場合にはリアルタイムに都度本人確認した方がいいということをお客さまに伝える。本人確認をしてもらった結果、やはり不正な口座だったということが確定できた場合には、該当口座もしくはその口座にログインする端末をブラックリスト登録し、お客さま間で“悪い人情報”をシェアするということをやっている。この項目も250項目で見ている。
ブラックリストをシェア……「Fraud Alert」は一社一社で不正利用データを集めるのではなく、皆で情報をシェアすることで社会全体のセキュリティコストやコンプライアンスコストを下げようというコンセプトでやっている。例えば銀行Aで不正送金が発覚した際、悪用された端末はほかの銀行や暗号資産、消費者金融など色々なところを流れていくので、その流れ先を追いかけて口座を凍結し、ブラックリスト登録してお客さま間でシェアする。また、新たにマーケットをつくっている段階にあるのがキャッシュレス推進協議会のCLUE(クルー)というサービス(カウリスはデータベース技術協力)。悪い人情報をリアルタイムに流通させることで、二次被害、三次被害を未然に防ぐといったものだ。
積極的に政策提言……SIerなどの既存サービスはメガバンクから委託で受けている契約のため、データを外部に出してはいけない。一方、当社は悪い人情報を第三者提供するという前提でお客さまと契約する。法的論点の整理もしており、当社のビジネスは犯罪収益移転防止法の第8条に該当する上、個人情報保護法に関しても、第27条の「法令に基づく場合」に該当し、理論武装されたサービスであると言える。また、(経済産業省の)Jスタートアップ企業に認定いただいたり、サンドボックス制度を活用して電力会社が保有する個人情報を活用する取り組みなど官民連携をかなり深めており、ガイドラインの作成や法改正といった政策提言も積極的に行っている。グローバルでも規制を変えていくレギュレーションテックというのが出てきているが、日本国内では私たちがそれに該当する。
26年までに銀行シェア50%へ……データを最初に多く取ったもの勝ちのデータベースビジネスであり、データが増えるほど新規のお客さまを獲得しやすくなる。金融業の大動脈である銀行を押さえていけば、おのずとその先の資金移動業(Eコマース、クレジット)にも入っていける。昨今はキャッシュレス化の普及に伴い、従来の金融庁管轄だけでなく経済産業省管轄業種でも規制強化の動きがあり、25年には店舗、Eコマース、クレジット業界でも不正利用者の情報を流通させる方向で協議が進められている。現在、「Fraud Alert」の取引先銀行は約20社でマーケット占有率は17~18%程度。これを26年(FATFのフォローアップ期間のデッドライン)までに50%まで拡大し、後発の参入ハードルをさらに上げる。
社数×設置面積拡大で成長へ……売り上げは契約社数×ARPU(顧客当たり売上高)+契約社数×コンサルティング売り上げで構成される。お客さまの口座数やユーザーアクション数(ログイン数や口座開設数、送金回数など)、モニタリング対象範囲(ブラウザ・スマートフォンアプリ、口座開設/ログイン送金ページ)など、設置面積を広げることで単価を上げていく。基本的なKPIはMRR(毎月継続的に得られる収益)、契約社数、ARPUの3つ。ARPUに関しては、インターネットバンキングのユーザーはオーガニックで1年間に20~40%増加することに加え、昨年はフィッシング詐欺が多かったこともあり、モニタリング対象ページを拡大する事案が増えている。現在、当社の取引先では最大で4面設置の会社が2社いるが、年内に5面設置をする会社が2社程度増える。(SS)