ファーストアカウンティング(5588・G)が9月22日、東証グロースに新規上場した。同社は会計分野に特化したAIソリューション事業を展開。初値は公開価格を78%上回る2,354円だった。上場当日の記者会見で森啓太郎代表取締役社長=写真=が語った内容のポイントは次の通り。
経理業務の自動化……大手企業向けにAIを使った経理処理の自動化サービスを提供する、日本では珍しいエンタープライズSaaS企業。事業は「Robotaシリーズ」(経理業務AIモジュール)、「Remota」(請求書処理プラットフォーム)、「Peppolアクセスポイント(デジタルインボイス送受信サービス)」の3つ。中小企業向けには23社の会計ベンダー経由でOEM提供しており、大手企業向けに関しては直接販売やパートナー(上流コンサルやSIer)経由でも提供している。なお、Peppolとは電子請求書の国際標準規格で、当社はデジタル庁とOpenPeppolという協会から認定を受けた。23社の会計ベンダーと既に契約があり、電子請求書のインフラ周りを手掛ける。
No.1戦略……経理領域における電子化・DXのソリューションとしてはNo.1の売り上げ。日本を代表するような大手企業が経理DX(デジタルトランスフォーメーション)ソリューションとして私たちのAIを活用している。最近は大手企業も経理人材の採用が難しくなってきており、上場企業が今一番課題に感じている企業価値向上に貢献するソリューションとして採用が進んでいるという背景がある。特に照合作業を得意としており、60%のチェックを削減したという事例もある。
広告宣伝費に依存しないビジネスモデル……今12月期は売上高12億1,700万円(前期比54.9%増)、当期純利益1億900万円(前期は7,800万円の赤字)の見通し。毎月お金を頂くモデルなので、自信をもって予想を開示している。SaaSベンダーにしては黒字転換が早いとのお言葉をよく頂くが、広告費用が売り上げに対して6%のみという形となっており、実質ウェビナーぐらいしか外注費用がかからない。
安定かつ高成長……導入社数は6月末時点で99社。売上高構成は中小企業向けのOEMの売り上げが34%、大手企業向けの経理DXソリューションが66%となっている。さらに1社当たりのLTV(ライフタイムバリュー)は7,800万円、平均の契約年数が28カ月と高単価かつ長期での契約であり、解約率も低い。ストック比率は93%とグロース市場の銘柄でありながら、非常に安定感がある事業を展開している。
強み……社内には非常に優秀でエッジの効いたAIのエンジニアが6人いる。直近ではコンピュータービジョンの国際会議で当社の生成AIの論文が採択された。自社内に教師データをつくる人が39人いるというのも非常に特徴的。また、世界的コンサルティングファームや大手SIerらとのパートナーセールス体制も厚く、新規の売り上げの70%はパートナー経由。さらに70%の実装はパートナーがやってくれるため、私たちが目算を誤って想定より多く来たとしてもパートナーでスケールするようなビジネスモデルを組んでいる。経理帳票のアナログとデジタルの両面に対応できる点も強み。
市場は広大、追い風も……私たちも努力しているが、市場環境も非常に恵まれている。会計関連ビジネスの市場規模は4.5兆円もあり、メインターゲットである国内500億円以上の大手企業のうち、当社が開拓できているのは6月末現在で100社弱、まだまだ広大なマーケットが広がっている。「2025年の崖」に向けてERP関連の投資は引き続き堅調で、経理DXの需要は特にコロナ後、リモートワークという文化が経理部でも根付いたことで現場の方の支持も増えてきた。また、今までは経理処理を海外で行っていた大手に関しても、円安を背景に、AIで自動化して経理業務を圧縮して日本に持ってくるという一つの大きなトレンドになっている。
成長戦略……生成AIの研究を進めている。1つはOCR(光学的文字認識)処理の精度を上げること、あとは海外のAIの学会にもどんどん登壇し、論文を出している。私たちの特技である照合作業といった経理作業に関しても、AIで意思決定ができるようにと考えている。また、請求書を送るサービスに関しても開発予定。また、海外展開については、外国籍エンジニアの採用が順調に進んでいることもあり、英語の請求書に関してもAIで既に読めるようになっている。
今後の利益成長と来期の投資……売上総利益率が急速に改善しており、今12月期は期初から黒字転換している。国内のSaaSによくある、赤字になりながら登っていくというのはなかなか許されない環境になっていると思うので、トップラインを伸ばしながら利益を出し、かつ投資もしっかり行い事業を拡大させていく。来期の投資の打ちどころとしては、生成AI用のサーバーに1億円弱、海外展開および新しいサービスに1億円弱。事業を伸ばしていくには採用費用もしっかり投下していく必要がある。(SS)