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IPO2025年3月26日

IPO社長会見 ミライロ バリア(障害)をバリュー(価値)に変える

ミライロ(335A)が3月24日、グロースに上場した。上場2日目に公開価格比2.4倍の661円で初値を付けた。同社はデジタル障害者手帳「ミライロID」の開発・提供などを行う。上場当日の記者会見で垣内俊哉代表取締役社長=写真=が語った内容のポイントは次の通り。

成長の土壌が整いつつある……民野(剛郎副社長)と私が大学生の時に立ち上げた。私は骨の病気で幼少期から車椅子に乗って生活している。父も弟も同じで、さかのぼれば明治の先祖から脈々と受け継がれてきた。当時は外出することも困難だったと聞く。でも今はバリアフリーが随分進み、私は学校で学ぶこと、働くこともできている。「歩けなくてもできることだけじゃない、歩けないからできることがある」と信じ、バリア(障害)をバリュー(価値)に変える「バリアバリュー」を理念に事業を進めてきた。障害者やその家族の外出、生活におけるバリアは、環境、意識、情報の大きく3つ。このバリアを解消し、新たな価値へ変えることを目指している。創業期は企業や自治体の啓蒙活動に注力し、オリンピック・パラリンピックの開催決定以降は機運の醸成に努めてきた。2016年に書籍出版、18年にはガイアの夜明けで取り上げられるなど弊社の認知が広がった。4年前の障害者差別解消法改正の成立や法定雇用率の引き上げを背景にさらに成長していく土壌が整いつつある。

売上高50億円となれば営業利益率50%を目指せる事業モデル……現在は、プラットフォーマーとしての利点を生かしたマーケティング、システム連携、リサーチ、コンサルティングを行う「ミライロIDソリューション」、私のような障害のある当事者が講師を務め、障害に関する知識や応対方法を企業・自治体・教育機関に伝える「ユニバーサルマナー研修および検定」、聴覚障害者に対する情報保障、手話通訳や文字通訳を行う「コミュニケーションサポート」の3事業を展開。売り上げ構成比はそれぞれ33%、42%、24%。それぞれが黒字化している。中でもミライロIDソリューション、ユニバーサルマナー研修および検定は成長性が高いため、優先的に投資していく。いずれの事業もシステム化、高付加価値化により限界利益率は高くなっている。売上高が20億円になった時の営業利益率は35%程度、売上高が50億円になれば営業利益率50%が目指せる事業モデルとなっている。

ミライロIDについて……障害者の身分証である障害者手帳は今日本で283種類ある。発行主体が自治体で規格がバラバラのため確認も負担になり、残念ながら不正利用も生じていた。そこで283種類を1種類にしようと電子化を実現した。ミライロIDにより障害者が毎日持ち歩く負担、事業者が毎回確認する負担を減らすことができている。20年6月には政府からの要請を受けマイナンバーカード、マイナポータルとの連携を実現した。現在は飛行機、バス、フェリーなどの交通機関に加え、映画館、美術館など様々な場所で使え、導入事業者数は今では4,100社を超えている。

ミライロIDの強みとサービスの事例……大規模に障害者が集い、大規模なアプローチが可能なプラットフォームはミライロIDだけ。特許とマイナポータルとの連携が相まって参入障壁も高い。デジタル上で障害者の認証や決済を行える必須ツールとなっていることも強み。このプラットフォームを活用し、小売りや外食業は販売促進のクーポン、障害者雇用を進める企業は求人情報を掲載し、当社はこれに伴う広告収入を得ている。また、本人が使っている福祉機器の情報を各社のアプリやサービスと連携している。例えば私は車椅子に乗っているのでこの情報を連携すると、タクシーの配車アプリでスムーズに手配ができるようになる。JR四国では窓口に行かなくとも切符を購入できるようになった。みどりの窓口が減少し、地方では無人の改札も増えている。こうした人手不足の課題解決にも貢献している。

成長戦略……今後の成長に向け顧客数の増加、顧客単価の向上が必要。それには社会全体の機運の醸成と、ミライロIDの拡大が欠かせない。ミライロIDはユーザー数の伸びに比例し広告掲載やマーケティング利用を行う企業が増えてきた。また、タクシーの配車アプリやJRと実現したようなAPI連携の事例もユーザー数が10万人を超えたあたりから着実に増加している。今後はより多くのインフラ企業とのシステム連携を図っていきたい。

ビジネスにこだわる理由……NPOの方がいいのではないかと、私と民野が大学の教室の片隅で事業アイデアを練っている時はそういう声が多く寄せられていた。でもビジネスにこだわった。これまでの日本のバリアフリーは人権運動やアドボカシー(擁護)の文脈で動くことが多かった。例えば1970年代に障害を持つ方がバス会社をジャックする川崎バス闘争があった。それはそれで日本のインフラを前進させるという役割は間違なくあったが、それで長続きするかと言ったらしない。広がるかと言ったら広がらない。ちゃんとビジネスとしてやっていかないと、お互いにちゃんと利益が出たねとか、コストが減ったねとかの話にならないと広がらないし、続かない。だからやはりビジネスでないといけないということを私たちはポリシーとしてずっと持ち続け、今日まで15年やってきた。そうした中、ありがたいことに上場という一つの節目に到達できたこと、そして今日初値が付かないまでみなさんの高いご期待を寄せていただいているのは本当にありがたいことですし、せっかく寄せていただいている期待を裏切らないようにこれから着実に業績を伸ばし、広げていけたらと思っている。投資家のみなさまには、この事業は間違いなく日本だけでなく世界でも求められるものであることをしっかりお伝えしたい。世界で暮らす障害者は10億人を優に超える。今はまだ弊社の余力としてはグローバルに打って出るような状況ではもちろんないが、しっかりと事業成長を果たした折には世界中の障害者やその家族にも貢献していけるような会社になっていきたいと思っておりますのでぜひ長い目で温かく見守っていただけたらうれしい。(Q)

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