豆蔵デジタルホールディングス(202A・G)が6月27日、東証グロースに新規上場した。DX(デジタルトランスフォーメーション)化が遅れている特定業界向けに工学的手法を駆使したプラットフォームを提供。初値は公開価格を1.3%上回る1,348円だった。上場当日の記者会見で中原徹也代表取締役社長=写真=が語った内容のポイントは次の通り。
MBOを経て再チャレンジ……もとは豆蔵HDという形で当時の東証1部市場に上場していた。この時グループはSIerの塊と豆蔵を中心としたコンサルティング会社の塊、あとは人材派遣と10社を抱えており、いわゆるコングロマリットディスカウントということで経営が伸び悩んでいたと聞いている。それを解消すべくMBO(経営陣による買収)を経て、今回は豆蔵、エヌティ・ソリューションズ、コーワメックスの3社で豆蔵デジタルホールディングスを形成して新規に上場した。一部ネットでは再上場と言われているが、私どもとしてはスピンアウトして新しくホールディングスをつくり、全く新しい事業形態で新規で上場したという認識だ。
事業改革で収益性向上……エヌティ・ソリューションズ、コーワメックスは開発が中心で少し収益性が低いという問題があった。一方、豆蔵はもともとコンサル会社で収益性が高い。MBO後は豆蔵から顧客を紹介したり、同社が持っているコンサル事業を新規で設置をし、単価の高い、利益が上がる事業をつくってきた。こうした事業改革や組織改革に取り組み、豆蔵以外の2社の収益性が高まったところで新規上場という判断をした。エヌティ・ソリューションズはSAPやマイクロソフトのダイナミクスというERP(統合基幹業務)製品を扱っているソリューション会社。コーワメックスは東海地区で40年の歴史がある古い会社で、デンソーやアイシンなど自動車産業へのモノづくりのソリューションコンサルをずっとやっている。
主要顧客は自動車業界……グループの売り上げの約6割が製造業向け。その中でも自動車業界が4~5割を占めている。サービスは大きく4つ。①クラウドコンサルティングでは、基幹システムのクラウド化ができていない、内製化が図れていない、人材育成がうまくいっていないなど、製造業のお客さまがデジタルビジネスを進めていく上でまず大きな壁になるもろもろの問題を解決する。②AIコンサルティングは、今年1月時点でコンピュータサイエンス、AIを学んだ人材が約40名いる。彼らが生成AIを含むAIの先端技術に取り組んでいる。④のモビリティ・オートメーションはコーワメックスの事業そのものを指しているが、基本的には輸送産業、特に自動車産業における電動化領域、先進運転支援における車載ソフトウエア化、あとはSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)への対応、製品のCASE化対応に取り組んでいる。
産業ロボットを作れるIT企業……中でも特徴的なのは③AIロボティクス・エンジニアリング。私どもは10年前に海外のメーカーから引き合いを頂き、産業ロボットをゼロから開発してきた。約5年かけ、産業ロボットそのものをソフトウエア、メカ、エレキ全て作り上げ、海外へ出荷をするところまで終えている。そこで得たノウハウを持って、例えば今は食品メーカー向けのロボットに取り組むなどロボティクスの事業が1つの大きな柱になっている。IT業界の中で産業ロボットを構築した経験を持つ企業はほぼいないと思っているので、これは大きな特徴だ。また、エンジニアリングではOEM(相手先ブランドによる製造)メーカーや部品メーカーの車載ソフトウエア化やSDVの取り組みでエンジニアリングの支援をしている。
競争力の源泉は人材……業績は全体的に極めて順調に推移をしており、今回IPOのタイミングで中期計画も開示した。2024年3月期の売上高は96億円程度だったが、今後3年間の年平均成長率10~12%、連結営業利益は18億から年平均成長率15~17%、営業利益率が18%以上を目指す。この数字は保守的な、この3年間で必ず達成できるコミットラインとして提示した。われわれの技術者は、アカデミアな要素と先端な技術を駆使して市場で非常に競争優位性の高いポジションを確立できている。私の考えとして、このグループが成長を図っていく上で一番大事なポイントは、その技術者同士が切磋琢磨(せっさたくま)できる環境があるということ。そして技術者が成長できるプロジェクトや環境をいかに供給できるか、そこに尽きると思う。目標の高いプロジェクトを技術者が乗り越え、そこで得られた達成感の積み重ねがわれわれの業績、成長に寄与していくと考えている。そのサイクルができると技術中心の風土、文化が醸成され、より優秀な多様な人材が引き寄せられる。
成長戦略……私どもは必ずしも人を増やす、いわゆるヘッドカウントに依存したモデル(労働集約型)にはなっていない。豆蔵を中心として、ほかの2社の質的改善と質的成長を図っていくことが戦略のベースラインとなっている。具体的には案件の高付加価値化、あとは2社でそれぞれ新規事業をつくり、そこに人を配置転換して収益を上げていく。特に“質”を重視しており、これまでも成長の内訳として量的成長は2%程度。残りは質的成長で成長を図ることができている。また、生成AIは既に1年前からクラウド、AI、ロボティクス、モビリティそれぞれの領域で取り組みを行っている。私どもの特徴としては、クライアントをひも付けて技術検証をしているところ。既にグループの中で生成AI関連のプロジェクトが6つ動いている。今年、来年と進捗があるので適時事例を発表していく。(SS)