PRISM BioLab(206A)が7月2日、東証グロースに新規上場した。病気の原因や治療効果のあるPPI(タンパク質間相互作用)にピンポイントで働きかける化合物を効率的に合成できる独自の創薬基盤技術「PepMetics」を持つバイオベンチャー。初値は公開価格を8.6%上回る489円だった。上場当日の記者会見で竹原大代表取締役=写真=が語った内容のポイントは次の通り。
これまでの歩み……創業期の10年(2006~16年)の間に独自の創薬プラットフォームをしっかり完成させ、かつ2つのプログラムを臨床試験にあげていくというところを実績として積み上げてきた。17年から共同研究の方に軸足を移し、20年にはベーリンガーインゲルハイム、独メルク、21年にはセルビエ、ロシュ、ジェネンテックとの共同研究を開始し、その後は大原薬品、エーザイとの2つのライセンスについて、POC(治療概念の実証)で人での効果が確認されるということに至っている。昨年にはイーライリリーとの大型契約、そして今年4月に小野薬品と新たな創薬ターゲットについての契約を結んでおり、当社の創薬基盤が多くの製薬会社に認められてきている。
サイエンス面のガバナンスを重視……創薬業界は新たな技術が新たな創薬領域を創り出し、そこでたくさんの薬が作られることを繰り返して発展を遂げてきた。当社の目標は従来困難とされていた創薬標的をターゲットとして、新しい創薬分野を創り出していくこと。グローバルにインパクトのあるバイオテクになりたい。特に力を入れているのが外部アドバイザー。サイエンスの判断というのは極めて高度で、どういう創薬ターゲットにどうプログラムを進めるかというのはその後の運命を決める重要な判断となる。自分達のノウハウだけでなく、サイエンス面でのガバナンスを効かせた形で運営を進めていくため、グローバルに実績のある先生方にサイエンティフィック・アドバイザリー・ボードになっていただいている。
ビジネスモデル……自社開発事業は自ら創薬標的を定め、それに対してヒット化合物、そして臨床候補化合物まで作り出し、臨床試験に入る前後でライセンスをする。これによって大きなリターンが見込めるが、この間3~5年はかなりのリスクを伴いながら数億円の投資をするということで、どちらかというとハイリスク・ハイリターンなビジネスモデルだ。一方、共同開発事業は製薬会社が既に決めている創薬標的に対してわれわれの技術を使う。この場合には初めから契約一時金、共同研究費等々が入ってくるので、プロジェクトとしては初期の段階で黒字となる。この2つの事業をハイブリッドで組み合わせることで、安定的に収益を得ながら大きなリターンを期待するという形を目指している。
PPI標的を制御……新しい創薬領域を実現するためのポイントがある。まずはPPI標的を選択的に制御できるということ。既存のキナーゼ阻害剤と比較すると、キナーゼはリン酸化酵素というもので体の中に500種類以上あるが、既に72の薬になっており、ほぼほぼ薬の対象としては使い尽くしている。また、どうしても選択制の問題があるがためにがんにしか使われていない。そういう状況の中でも、01年にグリベックという最初の承認薬ができてから20年間で7兆円の市場規模となっている。対してPPIは体の中で65万種類あると言われていて、様々な疾患に対応している。また作用機序としても転写、翻訳、シグナル伝達、リン酸化以外にも様々な作用機序に対応できるし、適応疾患も十分な選択制が取れる。ところが、なかなか創薬が難しいこともあり、低分子タイプのPPIで承認されているのはまだ16年のベネトクラクスのみ。われわれの化合物は細胞の中に入ってPPIを制御し、かつ安定性もあって経口剤まで持っていけるということで理想的なモダリティと言える。
化合物の設計におけるPepMeticsの柔軟性……PPIにおいてはヘリックス構造というものが重要な役割を担っている。このヘリックス構造をまねればPPIが制御できるのだが、それができる初めてのテクノロジーが当社の「PepMetics」だ。ヘリックス構造はらせん状になっており、三次元的な構造をまねしなければならないが、従来の低分子は平面的で、こうした三次元的なものを模倣するにはなかなか向かないと言われていた。当社は三次元的に様々な方向を向いた手を生やすことが可能な骨格というものを40種類以上創り出し、特許で押さえている。理論上は2億5,000万通りの組み合わせの化合物がデザインできる。既にその中の約2万化合物を合成し、ライブラリとして提供している。この秋までには2万5,000まで拡張できる見込み。
パイプライン創出のための取り組み……特にAI分野の投資を積極的にやっている。われわれの化合物のデータはAIでの分析に極めて適しており、かなり実用的に現場で使っている状況。比較的狭い空間に多くのデータを持っているので、例えば物性(膜を通るか、水に溶けるか、分解しやすいかなど)をわれわれの既に持っているデータを使うと、合成する前から8~9割以上の確率で予測することが可能となってきた。また、もともとケミストリーを中心にやっていたが、やはり創薬全体をできるようにということで、現在はバイオロジー領域でも様々な機能、人材を集めている。目安として、自社開発はそれぞれのプログラムが開始から臨床開発まで行くのに大体3~5年ぐらい。既に進行しているプログラムもあるので、できるだけ早くライセンスまでもっていきたい。(SS)