Veritas In Silico(ウェリタス イン シリコ、130A)が2月8日、東証グロースに新規上場した。同社はmRNAを標的とした各種治療薬の開発を支援するバイオベンチャー。初値は公開価格比2倍の2,001円だった。上場2日目も買いが先行し、ストップ高(3,005円)。上場当日の記者会見で中村慎吾代表取締役社長(写真)が語った内容のポイントは次の通り。
治療“できない”を“できる”に
新しい創薬アプローチであるmRNA標的低分子創薬によって、従来のタンパク質を標的とした創薬技術では治らなかった疾患を治療できるようになることが期待されている。現時点において本創薬で上市された低分子医薬品はまだないが、経口投与が可能で医療経済的にも社会から望まれており、将来的に巨大な市場の形成が期待できることから世界的に注目が集まっている分野。ブルーオーシャンを開拓できる可能性がある。
最近は抗体医薬、ゲノム編集など先進的な医療のニュースが多く聞かれるが、医薬品市場の約半数は低分子医薬品。先進的な医薬品は大変すばらしいが製造のハードルが高い。mRNA標的低分子医薬は先進的でありながらアンメット・メディカル・ニーズ(いまだ治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)に応えられる、製造にも難がない医薬品になり得る。
従来型の低分子医薬品は治療できない疾患があることから、業界のトレンドは抗体医薬品などに移っていたが、mRNAを標的とすることでこれらの疾患を治療できるようになればトレンドが戻ってくると考えている。
プラットフォーム契約で安定収益を実現
当社のプラットフォーム技術「ibVIS(アイビス)」は、ターゲット探索からスクリーニング、出来た化合物を検証・最適化して臨床候補化合物に作り上げていく一連の技術を統合している。加えて、製薬会社が保有する低分子医薬品インフラと組み合わせるだけでmRNA低分子創薬が可能。最初の契約の時点で10年以降を含んだ将来の収入に関する経済条件全てを取り決める、いわゆるペプチドリームが行っているようなプラットフォーム契約が可能となっている。
最大の強みは実績に裏打ちされているところ。mRNA標的低分子創薬プラットフォームとなり得る技術をいちはやく確立し、それを製薬会社などとの共同研究を通じて技術向上させている。その結果、技術向上と事業拡大の好循環を生み出し、23年ごろから武田薬品などとつながるようになった。ここからさらに海外へ出ていく。
黒字のバイオテック
プラットフォーム契約によって安定財源が確保されており、パートナーとの共同創薬研究の進捗と、武田との新規契約の獲得によって2023年12月期に黒字化を達成する見込み。計画通りに推移しており、当社は黒字化したバイオテックと言える。
既存の契約(東レ、塩野義、ラクオリア、武田薬品)は、3年以内の短期(契約一時金・研究支援金・研究マイルストーンで最大総額17.8億円)、10年以内の中期(開発マイルストーンで同80.5億円)、さらに長期(売り上げマイルストーンで同1,050億円)と、いずれも収益を得られる構造となっている。医薬品が上市された際にはロイヤリティも別途入る。さらに新規契約を取っていくことで総額自体も拡大していく。
プラットフォームから“製薬”へ
プラットフォームのビジネスを拡大しつつ、自社でもパイプラインをつくるハイブリッド型ビジネスモデルに転換し、企業価値の最大化を目指す。一方、ナスダックとNYSEのヘルスケアセクターで上場している企業を全て調べたところ、10年以上上場を維持している中堅企業のほとんどがバイオテックではなく、スペシャリティファーマー(特定の領域に特化している製薬会社)ということが分かった。今後のある時点で長期持続成長を可能とするスペシャリティファーマーへ再転換し、社会に医薬品を届けていこうと考えている。(SS)