WOLVES HAND(194A)が6月20日、東証グロースに新規上場した。関東・関西・沖縄エリアで展開する日本最大の動物病院グループ。初値は公開価格を13.6%上回る875円だった。上場当日の記者会見で北井正志代表取締役CEO=写真=が語った内容のポイントは次の通り。
動物医療の総合カンパニー……獣医師が中心となって動物病院を運営している。現時点で九州・沖縄、関西、関東の3エリアに動物病院33拠点を所有。また、その他事業として①ペットサロン運営②動物病院向けソフトウエアの提供③獣医医療教育セミナーの配信④医療用機械器具の製造・販売――を手掛けている。当社はあくまで動物病院の会社なので、全ては動物病院に来る患者の数を増やすことや、たくさんの獣医師に当社へ就職したいと思わせるような、副次効果をもたらせるようなビジネスに取り組んでいる。
共同研究による創薬・商品開発も……付随ビジネスとして大手医薬品会社などとの連携による創薬・商品開発にも取り組んでいる。現在は10社ほど提携先があり、そのうち5社程度がもう契約の段階にまでいっている。その中には大手の製薬会社も存在している。他社と違って当社が創薬や医療機器の開発に有利な点としては、毎日適応症例が来るのでそこで治験を行っていける。昨今は動物実験や治験へのハードルが非常に上がっており、なかなか気軽にはできないということで、いろんな企業が当社と協力したいという意思を感じている。
シームレスな医療体制……動物病院には大きく分けて一次診療と二次診療がある。一次診療はかかりつけ医と呼ばれる比較的小さめな動物病院で、ペットに何かおかしなことがあったり予防医療をしたいというときにまず真っ先に行く病院のこと。そこで手に負えない、特殊な検査機器やオペの技術が必要となるような難解な症例を行うのが二次診療病院。現在の日本の動物病院ではこの2つがはっきり分かれているという現状の中、当社はかかりつけ医から高難易度のオペまで全てを一社で執り行うのが最大の特色。このモデルを最大の武器として全国に広げていこうとしている。
動物医療を中心としたビジネスモデル……前2023年6月期の売上高のうち動物病院からの収益が86%を占める。当社では予防医療や爪切り、簡単な避妊手術などを行う病院をサテライト病院、一方でCTやMRIなど通常の動物病院ではできないような診断を行う機械や、特殊な手術器具を置いてあらゆる症例に対応できるような病院をセンター病院と位置付けている。その他事業の①は単価が安く、そんなに利益の方は見込めないが、かなり集客能力がある。顧客を増やすべく、できる限り動物病院にトリミング、ペットサロンを併設して運営を行っている。②③④に関しては、今後当社がM&A・事業承継を進めていく際に、あらかじめつながりを持つことで信頼関係を築きスムーズに交渉に挑めるような、M&Aのための副次的その他事業になる。
動物病院を取り巻く事業環境……17年度に3,200億円ほどだったペット医療市場だが、23年度には4,000億円弱に成長している。一方、動物病院の総数としては微増状態が続いているものの、そろそろ頭打ちが近い。このうち個人が開業している動物病院の割合はじりじりと微減、逆に当社のような法人の診療施設数は大幅に数を増やしている。特に重要なのが、オーナー院長の平均年齢の推移を見ると、20~25年前に開業した先生たちが年を取るにつれて平均年齢が上がっている。12年時点では開設獣医師が8,199人、勤務医が6,236人だったのに対し、22年は開設獣医師8,121人、勤務医8,138人と徐々に逆転している。若い獣医師は安定を求めて動物病院に従事し続ける傾向が強まっており、新規開業数はこの10年減少傾向にある。
事業承継の受け皿に……高齢化した獣医師たちは自分の子供が獣医になって後を継がない限り、後継者を定めるのに非常に難航する。その受け皿になりたい。M&A戦略において、当社はシームレスな医療体制によってどのような動物病院でも買うことができる稀有な存在と考えている。また、若いうちに一次診療と二次診療の全てを学びたいという想いを抱いている獣医学生はかなりの割合でいる。そういう人たちにとって魅力的な職場となり、獣医師数を増加させていく。
後継者不足は深刻……当社以外のM&Aを積極的に行っている会社はファンドが主体であったり、獣医師ではない経営陣がその会社を動かしている。当社はトップが獣医師(代表の北井正志氏は開業獣医師)の唯一の会社であり、獣医師の気持ちに共感でき、M&Aの交渉のときもスムーズに物事が運ぶ点などはかなりのアドバンテージであると認識している。20年ほど前の動物病院バブルと言われていた時期に開業し、積極的に投資してきた病院も売りに出ているという現状があり、サテライト病院ではその先生が辞めたらだれも残らず箱だけになってしまうという状況もある。当社としてはできる限りたくさん学生を採用して獣医師を自社で育てて、獣医師がいない病院に院長として送り込んで再生していくといったことも並行しながら行っていく予定。
M&Aで成長加速……会社発足当時は13億円弱程度の売り上げだったが、M&A・事業承継により年間40億円規模に拡大させた。その後は上場の準備に入り、できるだけM&Aを控えるという方針でこの直近ではやや成長鈍化気味に見えるが、今後M&Aを積極的に加速させていきたい。営業利益率はおよそ17%を維持しており、今期も同程度で着地する見込みで進捗している。動物病院の利益率としては、それほど高い方ではない。病院数を増やして本部経費のパーセンテージを減らしたり、規模を拡大させることによって仕入れの交渉力が上がったりというところから、まだまだこの利益率は引き上げることが可能だと考えている。(SS)