東証によるPBR改善要求などを受けてIR(投資家向け広報)の見直しを多くの企業が迫られる中、日本証券新聞では上場企業の経営陣を含めたIR担当者向け勉強会を5月23日に開催した。今回はスピーカーと約50社からの参加者との対話、Q&Aセッションの一部を紹介する。
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勉強会ではテーマをIRの中でも「機関投資家とのコミュニケーション構築のコツ」に絞り、スピーカーにはMIHアドバイザリーの牧知秀氏と、ネクソン(3659・P)から米国公認会計士IR・企業広報室長の荒麻衣子氏の二人を迎えてディスカッション。参加者とグローバル・スタンダードを共有した。
Q1:国内機関投資家と海外機関投資家とで最も異なる企業分析や投資判断の視点は何ですか?
(荒氏)国内の投資家からは数字を求められることが多い印象です。四半期または通期のガイダンスやKPI(重要業績評価指標)を細かく求められるのに対して、海外の方は業績予想などよりもビジョンと、それに対してどういった戦略を立て、どういったマイルストーンを今後の目標としているのかといった、もう少し大きなところを求められるように感じます。海外の会社では四半期の業績予想すらないケースもたくさんあります。
(牧氏)そうでないケースもありますが、傾向としては、そうです。背景には「数」、日本株を見ている人間が国内にはたくさんいますから、差別化をはかるために数字をつめる。数字があれば分析したくなりますし、そうなると精度での勝負になってくる。
海外機関投資家は組織は大きいのですが、見るべき対象が多く日本株の分析にリソースがさほどかけられない。毎四半期の細かい数字をフォローできるはずもなく、まずはその会社のビジョンなりビジネスモデルなり戦略というところで判断せざるを得ない。
Q2:新規の投資家への友好的なアプローチやコンタクト方法は?
(荒氏)リーチしたい投資家との接点がない場合にはセルサイドの方の協力を仰ぐ。知り合いの投資家を紹介してもらうといった方法もあります。
(牧氏)今は電話でのコンタクトはほとんどできません。SNS(交流サイト)などで直接つながっていない限りはメールを送るしかない。しかし投資家は1日500~600件のメールを受けますから、目的のメールを見つけ出すのが精いっぱい。そうではないメールは読まれないことが多い。例えばIRのアレンジの案内メールでいうと、開かれるヒット率が15~20%という世界です。へこたれずにトライするのもひとつですが、私はこれを仕事にしている面もありまして、件名で相手の興味をひくようにを心掛けています。
Q3:弊社はPER50倍超、PBRも1倍を割っておらず、業績の割には決して低くない評価だと思うのですが、株主からは「株価が低過ぎる」という指摘をよく受けます。確かにここ10年ほど株価は最高値を付けてから下げ基調であることが原因だとは思うものの、結局、株主から「買った株価を上回る」でないと良いご評価をいただけずフォローに悩んでいます。
(牧氏)ここで言う株主というのが純粋に株を購入された方なのか、もともとお金を入れていたベンチャーキャピタルなのかよく分からないですけれども、そういうことはあるかと思います。現在のバリエーションがそんなに低くないということですと、これはもう業績を上げて株価を上げるしかない。全ての株主というか投資家を満足させ続けることはむずかしいのですが、皆さん、できることはきっちり胸を張ってやっていく。それで十分ではないでしょうか。
▶勉強会の様子は動画で後日公開いたします。
牧 知秀(まき・ともひで)
外資系証券会社で約20年コーポレートアクセス(日本企業の海外IRや海外機関投資家向けサポート業務)責任者としてIRミーティングやロードショーに従事。その知識・経験を駆使し現在はMIHアドバイザリー代表取締役として主に中小型企業と、アジアを中心とする投資家とをつなぐIRミーティングのアレンジメント、ミーティング効果向上のためのコンサルティング、あるいはIR人材サーチまでと幅広い支援を展開。