3社の成り立ちと概要 小泉改革で誕生、総合サービス業の巨人
2015年相場でも最大の“ビッグイベント”として、今秋に予定される日本郵政グループ3社の株式上場への注目度が高まっています。「日本郵政」は昨年12月、自社と、傘下の「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」との3社同時上場計画を発表し、今年6月30日には東証に上場本申請を行いました。順当なら10月にも実現する見通しです。1987年のNTTを皮切りに、JR各社やJTなど、いくつもの民営化企業が上場にこぎ着けましたが、「残された超大物」の登場とあって、株式市場にも大きなインパクトを与えることは間違いありません。新たな個人投資家を呼び込む“起爆剤”にもなることでしょう。今回から、新規上場する日本郵政グループ3社について、その特徴や、今後の成長性、上場の意義や市場への影響などさまざまな角度から見ていきたいと思います。まずは、日本郵政グループの成り立ちと主な概要ですが、表のように、日本で郵便事業が開始されてから今年で145年目を迎えています。そして、2005年、当時の小泉純一郎内閣が異例の衆院解散まで実施して成立させたのが郵政民営化法です。政府保証のある郵便貯金に資金が集まりがちで、民業を圧迫しているとの主張が背景にありました。
同グループは、07年10月の発足当初、持ち株会社の日本郵政の下に、「郵便事業」「郵便局」「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」の4つの株式会社がぶら下がる構成でしたが、法改正を経て、12年10月に郵便事業と郵便局が統合して「日本郵便」となり、合計4社体制への再編が行われました。同時に株式売却凍結法が廃止され、政府が保有する日本郵政株式は、3分の1超を残して売却可能になりました。株式上場されるのは、日本郵政と、子会社では、日本郵便を除く2社で、“親子上場”という形になります。
日本郵政グループのグループ・ブランドマークは、ジャパンポストの頭文字である「JP」です。同グループは、日本最大のサービス複合企業でもあります。グループ全体の利益の約9割は、ゆうちょ銀行、かんぽ生命という2つの金融サービス会社によるものですが、物流、宿泊施設(かんぽの宿)、不動産事業などにも広く展開し、例えば不動産事業の規模は、民間の不動産大手にも匹敵しています。
もちろん、ゆうちょ銀行、かんぽ生命も、民間と比較すれば、その存在感は圧倒的です。ゆうちょ銀行の預金量は預金取扱機関全体の1割を優に超え全国地方銀行60行にも比肩し得る規模です。かんぽ生命も総資産規模で、2位の日本生命を5割方上回っています。
次回は、上場する3社それぞれの内容について、もう少し具体的に見ていきたいと思います。(第2回は8月13日付掲載予定)
年月 | 内容 |
---|---|
1871年4月 | 郵便創業 |
1875年1月 | 「郵便役所」を「郵便局」と改称、郵便為替創業 |
1875年5月 | 郵便貯金創業 |
1885年12月 | 逓信省発足 |
1906年3月 | 郵便振替創業 |
1916年10月 | 簡易生命保険創業 |
1935年12月 | 年賀切手の発行開始 |
1941年10月 | 定額貯金の創設 |
1949年6月 | 二省分離に伴い「郵政省」発足 |
1993年6月 | 定期貯金・定額貯金の金利自由化 |
2001年1月 | 郵政省と自治省、総務庁が統合した「総務省」と「郵政事業庁」に再編 |
2003年4月 | 日本郵政公社発足 |
2004年9月 | 小泉純一郎政権が郵政民営化の基本方針を決定 |
2005年9月 | 郵政民営化を争点にした衆議院選挙で自由民主党が大勝 |
2005年10月 | 郵政民営化法案が成立、投資信託の販売などの取り扱い開始 |
2006年1月 | 日本郵政株式会社が発足 |
2006年4月 | 郵政民営化委員会が発足 |
2007年10月 | 日本郵政グループ(日本郵政、郵便事業、郵便局、ゆうちょ銀行、かんぽ生命)発足 |
2008年2月 | ローソンと総合的提携の合意 |
2009年4月 | 日本通運と宅配便事業を統合 |
2009年12月 | 民主党政権下で、株式売却凍結法が成立 |
2011年11月 | 東日本大震災復興財源確保法が成立 |
2012年4月 | 改正郵政民営化法が成立 |
2012年10月 | 「郵便局株式会社」と「郵便事業株式会社」統合により、「日本郵便株式会社」発足 |
2012年10月 | 郵政グループビジョン2012を発表 |
2013年3月 | JPタワーの商業施設「KITTE」が開業 |
2013年6月 | 元東芝会長の西室泰三氏が社長就任 |
2014年1月 | かんぽに新学資保険の販売認可 |
2014年2月 | 中期経営計画を発表 |
2014年8月 | がん保険新商品(JPオリジナルプラン)取り扱い開始 |
2015年2月 | 日本郵政、豪物流大手トールHDを約6200億円で買収すると発表 |
2015年4月 | 中期経営計画を策定 |
2015年4月 | 高齢者向け新サービス実施に向け、IBM、アップルと業務提携 |
2015年6月 | 日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命が東証に株式上場本申請 |
※出所:みずほ証券エクイティ調査部など |
[本紙8月7日付1面]
- 第1回 3社同時上場迫る!!
- 第2回 郵便局ネットワークが基盤 “屋台骨”支える金融2社
- 第3回 海外の郵政民営化・上場例 ドイツポストは“成功パターン”
- 第4回 「強み」と「弱み」 規模、知名度、そして信頼感
- 第5回 “民営化上場”の系譜をたどる 事業、需給などに共通傾向
- 第6回 事業環境と提携戦略 地銀に秋波、連携拡大へ
- 第7回 業績動向と3社の位置付け 連結収益は増益キープ
- 第8回 同業者や市場関係者の見方 ニューマネーの受け皿に期待
- 第9回 上場後のイベントスケジュール 主要指数採用の時期と成否は
- 第10回 「親子上場」をどう見るか 利益相反克服も課題に
- 最終回 成長戦略としての資産運用高度化 2つの人事が“本気度”示す